朝日中高生新聞
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わろて わろて がん治療

2017年5月28日付

大阪国際がんセンター

 笑いは、がん治療に効果がある? 多くのがん患者が入院、通院する大阪国際がんセンター(大阪市中央区)で今月、笑いの力を試す実証研究が始まりました。3カ月以上にわたり、計70人のがん患者が落語や漫才を楽しみ、心のストレスを減らしたりめんえき力を高めたりする効果があるかを検証します。(中塚慧)

落語・漫才見せて効果を検証

ストレス減、免疫力アップ?

 大阪国際がんセンター内のホールにできた「わろてまえ劇場」。18日、がん患者40人を含む約200人の観客が、かつらぶんさんらの落語に耳を傾けました。
 「いま一番明るい話題といえば、さまのご婚約。(お相手の愛称の)海の王子さまの趣味は、スキー。眞子さまもスキーがお好きで。スキ(好き)ー者どうし」
 文枝さんのだじゃれに、観客から笑いが起こります。患者らは、落語を聞く前と後に「気が張りつめている」「そわそわしている」などの項目を5段階で答えました。気分の変化を調べるためです。たんかんがんで通院中のすずあきらさん(60)は「大笑いして、気分が良くなりましたね」と楽しそうに話します。
 研究では、8月下旬まで8回の舞台を通して、「自分ならできる」と前向きに考えられるかを示す「自己効力感」、どれだけ自分らしい生活を送れているかの「生活の質(QOL)」という指標をアンケートします。月1回ほどのペースで、調査対象者の採血をします。がん細胞を攻撃するナチュラルキラー(NK)細胞の変化をみて、免疫力についても調べます。
 乳がんの治療をしているなかがわあきさん(48)は「がん患者は激しい運動ができませんが、笑うことで、上半身の運動をした心地がします」。
 笑いには、運動効果もあるのでしょうか。この研究を監修する福島県立医科大学教授のおおひらてつさんは、笑いの力として「有酸素運動とストレス解消の二つの効果がある」といいます。「大笑いすると、公園を散歩するのと同じくらいの運動量になります。また、おなかをふくらませて呼吸する『腹式呼吸』をすることで、リラックスできます」
 1990年代には、岡山県と大阪府の医師が、がんや心臓病の患者18人に漫才を見て笑ってもらい、免疫力の変化を調査。7割以上が、NK細胞の働きが活発になるとの結果が得られました。
 ただ、「過去の研究は1回だけの調査が多い。大人数を長期間にわたって調べるのは、世界初の試みで、結果が楽しみです」と大平さん。
 今回の研究では、70人のがん患者のほか、48人の医療従事者も参加します。「医師や看護師のストレスを笑いで和らげることが、結果的に患者さんのためになれば」と大阪国際がんセンターがん対策センター所長のみやしろいさおさん。研究結果は、年度内に国際学術誌で発表する予定です。
 出演者には、さかくにお・とおるやオールはんしんきょじんら、関西を代表する笑いのプロが集結。8月下旬、最終回の舞台に出る落語家のかつらぶんちんさんは「患者さんに寄り添いながら、一生懸命やりたい。私は(国際学術誌の)『ネイチャー』に載りたい」と意気込みます。

落語をする桂文枝さんの写真
がん患者らは桂文枝さんの落語を楽しみました

笑うエクササイズをしている写真
落語を聞く前に、笑うエクササイズをしました=18日、どれも大阪市中央区の大阪国際がんセンター

桂文珍さんら出演者と、宮代勲さん、大平哲也さんら医師や研究者の写真
ここは名付けて「わろてまえ劇場」。桂文珍さん(前列左から4人目)ら出演者と、宮代勲さん(後列左から2人目)、大平哲也さん(後列右端)ら医師や研究者=4月27日

笑うかどには健康来たる

 健康効果が注目される「笑い」。声に出して笑う運動「ラフターヨガ」や、でたらめな言葉を発して頭をすっきりさせる「ジブリッシュ」などを健康法として取り入れる人たちがいます。笑いを総合的に研究する学会もあります。(中塚慧)

おもしろくなくても大爆笑

 兵庫県西にしのみや市の企業「笑いそうけん」は、ラフターヨガやジブリッシュの講座などを開いています。20日、神戸市で行われた講座を訪ねました。
 「今からジブリッシュで世界一おもしろいジョークを言います」。代表のおおのぶかつさん(28)が、でたらめな言葉を言い始めました。「アマシャカ、イミネガー……」。すると、受講者からは大爆笑が起きます。おもしろくもないのに、なぜ?
 「作り笑いでいいんです。それが、体と心を元気にします」と大久保さんは説明します。
 ジブリッシュは、意味をなさない言葉を使い、表情や身ぶり、声のトーンでコミュニケーションを取ります。「『今日は嫌な日だな』とをこぼすと、ネガティブな気持ちになります。でも、でたらめな言葉だと感情をはきだせて、ストレスを発散できます」
 参加者の一人、なかじまとしさん(72)は「おもしろくもないのに笑うことに最初は抵抗がありましたが、いまは心から楽しく感じます」。
 やまたまさん(45)は、体のだるさや痛みを伴う難病・全身性エリテマトーデスと闘っています。「薬以外で症状の改善ができないかと、笑いの力に注目しました」。数年前から、毎朝15分間笑う運動を開始。症状がほとんど出なくなり、薬も3分の1ほどに減りました。「考え方が前向きになり、病気にとらわれなくなりました」
 大久保さんは2014年に、ラフターヨガが生まれたインドに行き、ジブリッシュを体験。その魅力にひかれて昨年、笑い総研を設立しました。「スマホなどで情報がたくさん飛び交い、ストレスが多い現代。一瞬で思考を止める笑いの力は、より求められているように感じます」

笑顔は生きる力に
 日本笑い学会(大阪市)会長で、関西大学教授のもりしたしんさん(ユーモア学)の話

森下伸也さんの写真

 日本は、ほかの国と比べて、ず抜けて「笑い好き」。狂言や落語、お祭りなど、昔から笑う文化が根付いています。
 日本笑い学会は1994年に設立しました。会員は1千人ほどで、医療関係者や研究者、芸人らさまざまです。北海道から福岡まで16支部あり、研究発表などで笑いの良さを広めています。笑うと気持ちが開放されて晴れ晴れとし、つらい人生も明るく生きられる知恵がつきます。大人になるにつれ、笑わなくなる人もいます。中高生のみなさん、笑顔は生きる力にもなると知っておいてください。

大久保信克さんがでたらめな言葉で話す「世界一おもしろいジョーク」に、大笑いする参加者の写真
大久保信克さん(左端)がでたらめな言葉で話す「世界一おもしろいジョーク」に、大笑いする参加者=20日、神戸市

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