朝日中高生新聞
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4月 新型コロナ禍で「学校再開」考えた

2020年5月17日付

10代の意見 政策に届け

ネットで署名を呼びかけ

 新型コロナウイルス対策で、10代の声も政策に生かして――。高校生がインターネット上で休校を求める署名を集め、教育委員会などに提出する取り組みが4月、各地に広がりました。「9月入学」をテーマにした署名運動も行われ、多くの賛同が集まっています。活動を始めた高校生は「自分たちにかかわることに無関心ではいけない」と話します。(猪野元健)

「命を守るため」 休校継続求める

 新型コロナウイルス対策で、国が中学や高校などの臨時休校を要請したのは2月末。その後、多くの学校が休校になりました。4月に入ると、国内の累計感染者数は3千人を超え、密閉・密集・密接の「3密」を避けてほしいという声が高まります。
 最終的な休校の判断は学校の設置者に任され、休校の実施やその期間は地域によって対応が異なります。後に感染拡大で特に注意が必要な「特定警戒都道府県」に指定される兵庫県では、県立学校を4月8日から再開する方針でした。これに対し、一部の県立高校生が「命を守るため」に休校の継続を求めて、ネット上での署名運動をスタートさせました。
 「学校が再開されると感染が拡大する」「自粛しなければならないという考えも薄れてしまう」
 4月3日に始まった署名活動は、全国から賛同が集まり、6日に約1万6千筆を兵庫県教育委員会に提出。教育委員会はこの日に方針を改めて、休校の延長を決めました。教育委員会の担当者は、署名が政策に与えた影響については回答を控えましたが、「高校生の思いは重く受け止めた」と話します。

兵庫県立高校に通う男子生徒(左)が、学校の休校を求めて集めた署名約1万6千筆を県教育委員会の教育次長に手渡している写真
兵庫県立高校に通う男子生徒(左)が、学校の休校を求めて集めた署名約1万6千筆を県教育委員会の教育次長に手渡しました=4月6日、神戸市
(C)朝日新聞社

兵庫県の公立高校休校延長を求めた署名サイト「Change.org」の画面
兵庫県の公立高校休校延長を求めた署名サイト「Change.org」の画面

大分県の県立高校生は公立学校の休校継続を求めて、約1600人分の署名を教育委員会高校教育課に手渡している写真
大分県の県立高校生は公立学校の休校継続を求めて、約1600人分の署名を教育委員会高校教育課に手渡しました=4月6日、大分市の大分県庁
(C)朝日新聞社

再開望まない 勇気を出して社会に訴えた

あの社長も応援 全国各地で活動広がる

 兵庫県での署名活動は7人の高校生によって行われました。そのうちの1人の男子生徒(2年)によると、学校の再開は「感染拡大につながる」「学生も家族も先生も命が危ない」とSNSでメンバーと話し合いました。
 「でも、自分たちだけで休校を延長してほしいと教育委員会に伝えても、話を聞いてもらえないと思いました」
 そこで、ネットの署名サイト「Change.org」で呼びかけることにしました。この方法を選んだのは、昨年秋に東京都の高校生らが大学入学共通テストの中止を求めて、約4万2千人分の署名を文部科学省に提出したことにも影響を受けたといいます。
 ツイッターで専用のアカウントを作って、発信を続けました。メディアに取り上げられ、楽天会長兼社長のたにひろさんも自身のツイッターで活動を応援。「受験生のことを考えてる?」「休校にして遊びたいだけでは」などと否定的な意見も一部でありましたが、最終的に賛同者は約2万1千人を超えました。
 兵庫県で署名活動が始まってから、福島、茨城、愛知、京都、和歌山、大分など全国各地の高校生もネットで署名運動を展開しました。茨城県の県立高校では、3年生有志が、全ての県立高の休校を求めて登校を拒否するストライキもしました。

通学怖い、「3密」不可避感染少ない和歌山もNO

 和歌山県でネット署名に取り組んだのは、県立高校に通う女子生徒2人です。4月5日にページを作り、2日間で集まった約500人分の署名を県の教育委員会に提出。女子生徒の1人は「兵庫県の高校生たちの活動に勇気づけられて行動できた」と話します。
 和歌山は、大阪や兵庫に比べると感染者が少ない地域です。それでも女子生徒が4月4日、自身のインスタグラムで学校を再開してほしいかとアンケートをすると、約40人のうち9割が「してほしくない」と回答。電車通学が怖い、学校では「3密」状態を避けられないなどのコメントが寄せられ、休校延長を求めようと考えました。
 和歌山県立高校では現在、5月末までの休校が決定。女子生徒は学校が再開したら、校内で新型コロナウイルスに対するアンケートを実施し、生徒の不安な思いがあれば学校に伝えていきたいと考えています。
 各地で署名活動が広がったことについて、兵庫県のメンバーの男子生徒は「社会で声をあげるのは勇気が必要だけど、行動すれば誰かがついてきてくれるとわかった」と話します。
 「選挙権がなく、政治に無関心な生徒が多い。でも、おかしいと思うことに、同調圧力でみんなと同じ行動をしていたら何も変わりません。政策には、生徒の声を反映させてほしいと思います」

兵庫県の高校生が休校延長を求め、署名を呼びかけたツイッターの画面
兵庫県の高校生が休校延長を求め、署名を呼びかけたツイッター

感染対策のもと再開の動き

公立小中高の96%、6月1日までに

 新型コロナウイルスの影響で各地で臨時休校が続きますが、新規感染者数は減少傾向です。文部科学省の11日正午現在の調査によると、臨時休校中の全国の公立小中学校や高校などのうち、96%が6月1日までに学校を再開する予定です。25日までに再開の予定が16%、6月1日までが80%。一部の地域では、すでに授業が再開しています。
 秋田県では11日、秋田市などの小中学校や県立高校が再開。7日から始まっていた自治体も含め、県内全域で再開しました。校舎内の消毒や定期的な換気、机の間隔を空けるなどの対策が取られているといいます。青森県や長崎県などでも多くの学校が再開しています。

新たな署名活動も

 休校が長引く中で、秋から新学年が始まる「9月入学」の導入が注目を集めています。政府で実現の可能性を模索する動きが出ていますが、急いで実施することには慎重論も根強くあります。大阪府の高校生は、実施を求めてネットでの署名活動に取り組み、5月2日までに2万3千人以上の賛同者が集まりました。

ネットで外へ発信、学校を変える

教育現場の問題に詳しい名古屋大学准教授(教育社会学)
うちりょうさん

賛同者以外の声も聞こう

 生徒が自ら意思を表明し、その声をあげる方法も自分たちで考え、ネット署名という新しい文化を活用して学校の外へと働きかける――。緊急事態の中で、こうした活動は頼もしいと思いました。
 校則や学校生活に疑問を感じ、先生に相談しても、生徒会を通じて学校と意見交換してもらっても、変えるのが難しいのが現実だと思います。それがネットであれば、先生を飛び越えて学校に働きかけられるメリットがあります。今は弱い立場の人の声がSNSを通じて広がり、社会運動へとつながっています。高校生のネットでの発信は広がるのではないでしょうか。
 でも、間違った方向に進まないように注意してほしいこともあります。ネット上でのヘイト(憎悪の表現)やフェイクニュースに賛同する人がたくさんいるのも事実です。賛同者がいたとしても調子に乗らず、さまざまな人たちの声に耳を傾け、頭を柔軟に考え続けていくことを大切にしてください。

内田良さんの写真

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