朝日中高生新聞
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2030 SDGsで考える

2020年2月9日付

第11回「不平等」
生まれ持つ「属性」を誇りに

 世界には、貧富の差や性別、人種などによるさまざまな「不平等」があります。日本社会は「平等」だと思いますか?
 不平等や差別に直面している人の中には、社会のマイノリティー(少数派)がいます。多数派に都合のよいように、権利が踏みにじられてきた人たちもいます。
 国連が定めた「SDGsエスディージーズ(持続可能な開発目標)」には、2030年までに達成すべき目標の一つとして「10. 人や国の不平等をなくそう」があります。人種や民族、文化など、違う背景を持った人たちが互いに認め、学び合っていける環境があってこそ、「持続可能」な社会といえます。
 生まれ持った「属性」で差別され、誇りが奪われることがあってはならない、というのが国際社会で大切にされる考えです。今回は日本に暮らすアイヌ民族や在日コリアンの人たちが置かれた立場や、権利の回復のために立ち上がり、活動する姿を紹介します。まずは知り、理解を深めること。そこから始めませんか。(中塚慧)

人や国の不平等をなくそうのアイコン画像

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質の高い教育をみんなにのアイコン画像

権利のために声を上げる
アイヌの自分 「隠す」から「向き合う」へ ―沖津翼さんの場合―

 北海道などに住む日本の先住民族「アイヌ民族」。「先住民族」と初めて明記されたアイヌ施策推進法が昨年、できました。しかし、アイヌ民族の中からは「法律には中身が伴っていない」という声も聞かれます。北海道札幌市の会社員、おきつばささん(39)は、アイヌ民族が自ら声を上げていくことが重要といいます。

特徴ある容姿への言葉に敏感だった

 昨年10月、主に首都圏で暮らすアイヌ民族が歌や踊りを披露する「アイヌ感謝祭」が神奈川県横浜市であり、沖津さんも舞台に立ちました。同県に住むアイヌ民族のしまあけみさん(63)が中心になって2010年に始め、ほぼ毎年秋に開いています。
 沖津さんは「アイヌ自らが権利のために声を上げていく必要がある」と来場者に訴えました。明治時代以降、アイヌ民族は政府によって独自の風習などを否定され、差別にも苦しんできました。昨年、アイヌ文化をより広めるための法律ができましたが、国主導の動きに違和感を覚えるアイヌの人たちは少なくないといいます。
 北海道おびひろ市生まれの沖津さん。「小さいころからアイヌであることは隠すのが普通、という空気がありました」。小学校の同級生は「アイヌ!」と叫んで、からかってきました。中学に上がると、「アイヌであることに目を背け、強くあろうとした」と振り返ります。
 しかし、高校では彫りの深い顔などの容姿をめられるように。「手のひらを返されたような、二重のショックでした。社会は勝手に変わっていく」。就職後も、アイヌ民族であることは周りに言いませんでした。
 「お前、『じん』みたいだな」。当時の会社の社長が、日焼けした沖津さんを見て冗談交じりに言いました。「悪気はなかったと思います」。でも、その言葉は「北海道旧土人保護法」という明治時代にできた法律(1997年に廃止)でも使われた差別用語です。「後になり、もしかしたらそういう目で俺を見ていたのか、とも思いました」
 25歳で関東へ引っ越します。先に上京していた同郷のアイヌ民族の友人が、ふいに「日本人でありアイヌ民族である自分たちのルーツ」について話題にしました。「アイヌであることに向き合いたい」という思いが強まり、首都圏に暮らす同世代のアイヌ民族のグループを立ち上げました。
 アイヌ民族が手本とする先住民が、ニュージーランド(NZ)のマオリです。沖津さんは2009年と18年、交流プログラムでNZを訪れました。
 NZにはマオリ語だけで教育を受ける公立学校があります。「目をきらきらさせて歌や踊りを披露するマオリの高校生を見て、涙が出ました」と沖津さん。マオリはNZの人口の16.5%(18年)を占め、マオリ語は英語と並んで公用語です。「どれだけの努力をして権利を勝ち取ったのだろう、と」
 マオリ語で放送するマオリ・テレビジョンという独自の放送局もあります。これに対して現在、アイヌ語を話せる人は限られます。沖津さんは30歳を過ぎてからアイヌ語の勉強を始めました。今は、北海道のSTVラジオのアイヌ語講座に出演し、アイヌ語を広めています。「声を上げるアイヌがいなくなったら、言葉は消えていく。アイヌが発信するメディアが必要です」
 【アイヌ民族】北海道を中心に、東北地方やしま列島などで暮らしてきた先住民族。明治時代、政府により和人(主にアイヌ民族以外の日本人)への同化政策が進められ、独自の風習やアイヌ語の使用が禁じられた。北海道庁の2017年の調査では道内に1万3118人。全国には数万人以上いるともいわれる。

アイヌ施策推進法
もう一歩遅れている…

 昨年できたアイヌ施策推進法は、アイヌ施策を国と自治体の責務とし、差別の禁止をうたいます。アイヌの伝統への理解を進めたり文化を守ったりする事業などへの支援を広げるねらいがあります。「大きな一歩」と評価される一方で、課題もあります。けいせん女学園大学教授のうえむらひであきさん(国際人権法)は「世界の先住民政策と比べると、遅れている」と指摘します。
 問題点として挙げるのが、先住民族としてもともと持つ権利(先住権)の保障に触れていない点です。先住権は、儀式のために川で自由にサケをとったり、アイヌ語で教育を受けられたりする権利ですが、国はそこまで踏み込みませんでした。
 今年4月には、北海道しらおい町に国立アイヌ民族博物館などで構成される施設「民族共生象徴空間(ウポポイ)」が開館する予定です。

アイヌ感謝祭の写真
9回目を迎えた「アイヌ感謝祭」で、アイヌ民族の伝統の遊びを披露する人たち=昨年10月、神奈川県横浜市

す沖津翼さんの写真
「言葉を残すため、マオリの取り組みから学びたい」と話す沖津翼さん=昨年10月、神奈川県横浜市

アイヌ施策推進法の成立を喜ぶアイヌ民族の人たちの写真
アイヌ施策推進法の成立を喜ぶアイヌ民族の人たち=昨年4月、東京・永田町の参議院本会議場
(C)朝日新聞社

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