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2019年7月28日付
国連で採択された世界の共通目標「SDGs(持続可能な開発目標)」を毎月1回、取り上げる連載「2030 SDGsで考える」。2030年までに17の目標を達成するには、さまざまな立場の人の協力が必要です。若い世代でも「行動」できることはあります。今回は特別編として、その一歩を踏み始めた読者を紹介します。17番目の目標は「パートナーシップで目標を達成しよう」です。(猪野元健)
愛知・名城大学附属高校3年の女子生徒は、学校でSDGsを広める「小さな種」をまいています。文化祭で伝えたり、海でごみ拾いをしたり。「若い世代が動くことで社会が変わる」と期待しています。
SDGsは、貧困や飢餓などの問題解決を目指して国連が2015年に採択。翌年、三重県で開かれた主要7カ国首脳会議(G7伊勢志摩サミット)で、SDGsの重要性が初めて議論されました。女子生徒はその様子を朝中高特派員として取材し、「地球の市民」としての課題に関心を持ちました。
昨年、学校の授業でSDGsを学び、「高校をSDGs活動の発信源にすること」を目標に、友達と活動を始めました。秋の文化祭では、17の目標を掲げたボードを作って説明し、生徒や来校者にそれぞれの目標に対してできることを考えてもらいました。また、ケニアの女の子たちの間で不足している生理用ナプキンを布で作ったり、インドなどで児童労働が問題になっているコットンを学校で育てたりもしています。
1年ほどSDGsの活動に取り組み、課題もあると考えています。メンバーは20人ほどいますが、学校は約2千人いる大規模校です。「すごいことをしなくてもいいのですが、SDGsと聞くと大変だと感じてしまう人が多いのかもしれません。どうすればもっと活動を広げられるだろう」
そこで考えたのが、もっとわくわくするプロジェクトを企画することです。7月30日から立命館宇治高校(京都)で開かれる「全国高校生 SR サミット~FOCUS~」に参加。全国の高校の取り組みを発表し、より良いものにしていくために知恵を出し合うイベントです。「今までの社会貢献のイメージを覆す『ときめく』プロジェクトをみんなでつくりたい」と意気込みます。
「クラスの枠を超えて、SDGsの17のテーマに分かれて、探究しています」。編集部にメッセージを寄せてくれたのは、福島県立福島西高校の佐藤伸郎先生です。今年度から、全学年の総合学習のテーマをSDGsに決めて取り組んでいます。
10日にあった5回目の授業。1年生約240人は17のグループに分かれてそれぞれの課題を調べ、まとめたことを発表しました。
「女性が家事や育児をするのが普通」「古いしきたりが不平等につながっているのでは」「そもそもしきたりって何なの」
男女平等の課題解決を目指す「5.ジェンダー平等を実現しよう」のグループは約20人。前回の授業では福島県男女共生センターから講師を招き、ジェンダーの基礎を学びました。それをもとにスマホなどで課題を調べて情報を共有し、男女の不平等に「おかしいよね」と盛り上がっていました。
橋本玲奈さんは「身近なことでも『それは女性だけがやらないといけないもの?』と気付くきっかけになりました」。中川奏斗さんは「男から見ても男性議員が多すぎる。男性視点の意見ばかりが社会に反映されてしまうのでは」と心配します。
授業は17の目標を知り、関心のあるテーマを選ぶことからスタートしました。先生は基本的に指導しません。生徒の自主性を育てることに加えて、世界中の大人が解決できなかった課題だからです。「今」の問題を調べるため、スマホの利用も特別に認めています。世界から地域の課題に落とし込み、年度末には調べたことや対策をまとめたポスター発表をします。
SDGsという言葉も聞いたことがない生徒がほとんどでしたが、授業の評判は上々です。中川さんは「国内外で大きな問題がたくさん起きている。世界の見方が変わってきた」と話します。
企画した佐藤先生は「17の目標は文系と理系にまたがり、身近な課題にもつながる。想像力や判断力を養い、これからの大学入試にも生かせる」と期待します。2011年に東日本大震災による原発事故が起きた福島だからこそ、持続可能な開発を考える意味もあると考え、全県に広めたいといいます。
田中愛さん(東京学芸大学附属世田谷中1年)は、6月からSDGsにかかわる新聞記事をスクラップして、2冊目に入りました。17の目標の観点から記事を読むと、最近は「12.つくる責任 つかう責任」や「14.海の豊かさを守ろう」などにつながるプラスチックごみの問題の記事が多いことに気づきました。
「死んだクジラの中から大量にプラごみが出てきた記事にはショックを受けました」と田中さん。6月に大阪で開かれたG20サミットでもプラごみの対策が話し合われました。「どのくらい環境に影響があるのか知りたい」と、環境問題への関心が深まっています。
学校の社会の授業でSDGsが取り上げられたことをきっかけに、スクラップを始めました。世界の問題が17に分けられているので整理しやすく、自分に何ができるのかを考えやすかったといいます。
千場美風さん(埼玉・早稲田大学本庄高等学院2年)は、所属する学校のボランティア団体「思い愛隊」の活動を通じて、身近にできるSDGsに取り組んでいます。ペットボトルのキャップをリサイクルするための回収箱を校内に設置し、昨年1年間で70キロ分を集めました。古本や文房具などのリサイクルも考えています。
17の目標の解決について、千場さんは「一人ひとりが問題意識を持つことが重要」と話します。一方、ボランティア活動を通じて、持続可能な開発の実現という考えを浸透させる難しさを感じました。世界の課題や対策をやさしく伝えていくことが必要と考えています。
科学の力をSDGsの問題解決に生かせないだろうか――。石倉要さん(島根県松江市立八雲中3年)はキノコの研究で「13.気候変動に具体的な対策を」「15.陸の豊かさも守ろう」などの目標に挑戦しています。
自宅が山間部にあることから森林に関心を持ち、中2からキノコの研究を始めました。キノコが森林を再生する力を秘めていると考えたからです。菌類の一種のキノコは「森の分解者」と呼ばれ、落ち葉や動物のふんなどを分解して、養分として森に戻します。石倉さんは、キノコを培養(生育)したり胞子を電子顕微鏡で観察したりして育ち方を確かめました。
「キノコが正常に分解機能を発揮すれば、森のエネルギーの循環も安定するのでは。キノコの研究が森の豊かさを守り、温暖化防止にもつながるはず」
小学生のときから続けている能楽のけいこにも力を注ぎ、能楽に込められた日本人の自然観を伝えています。能楽で注目を集めることで、キノコ研究の中身にも関心を寄せてもらえるかもしれないと期待します。
昨年、能楽とキノコについて書いた作文が、外務省などが主催する作文コンテストで最高賞を受賞。今年3月、米国の国連本部に派遣されたとき、職員との交流などでSDGsに触れ、「実現できることを具体的に示していきたい」と考えました。
「これからの研究者はSDGsを想像しながら研究していくことに価値が生まれていくのでは」。こんな未来を思い描いています。
キノコの研究などを島根県知事に説明する石倉さん=2月
(C)朝日新聞社
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