朝日中高生新聞
  • 日曜日発行/20~24ページ
  • 月ぎめ967(税込み)

1面の記事から

2030SDGsで考える

2019年6月16日付

第3回 「海の環境」
どうする?海のプラスチック

 レジ袋やお菓子の包装、ペットボトル――。私たちは毎日たくさんのプラスチックを捨てています。プラスチックは今の便利な暮らしを支えていますが、自然界に放出されると、分解されるのに時間がかかります。
 海に流れ出ると、プラスチックに含まれる添加剤が溶け出したり、有害な汚染物質をスポンジのように吸い取ったりします。劣化して小さくなったプラスチックは魚などの体に入り込み、食物連鎖で人間の体にも悪い影響を及ぼすのではと心配されています。そのため、海のプラスチックはいま、世界中で問題になっています。
 国連が定めた「SDGsエスディージーズ(持続可能な開発目標)」の一つ、「14. 海の豊かさを守ろう」という目標は、2025年までに、あらゆる種類の海洋汚染を防止し、大幅に削減するとしています。なかでも「プラスチックの利用を最低限に抑え、浜辺の清掃を行うべき」と呼びかけています。
 また「12. つくる責任つかう責任」という目標のなかでは、「海洋の大きな汚染源となっているプラスチックの消費を減らす」ことを掲げています。
 すでにさまざまな人がこの問題に取り組んでいます。今回は3組のチャレンジャーを紹介します。さあ、あなたには何ができるでしょうか。(今井尚)

砂浜に立つ奥田みゆきさん河合涼太さんの写真
海岸清掃活動を長年続ける「鎌倉の海を守る会」の奥田みゆきさん(右)と代表の河合涼太さん
=5月、神奈川県鎌倉市

海の環境はいま
拾う 使わない わたしの挑戦

SDGsの目標の一つ「14.海の豊かさを守ろう」のカット

SDGsの目標の一つ「12.つくる責任つかう責任」のカット

 Challenger1
「鎌倉の海を守る会」奥田みゆきさん
もはや「プラ浜」 拾いきれぬ細かさ

 5月、神奈川県かまくら市のざいもく海岸を「鎌倉の海を守る会」のおくみゆきさんたちと歩きました。一見するときれいな砂浜で、それほどごみは見当たりません。でも、砂をよく見ると、ところどころに青や黄色の粒が混じっています。細かくなったプラスチックです。
 奥田さんたちがこの海で清掃活動を始めたのは1997年。当時は発泡スチロールの食品トレーなどが目立ち、なかには不法投棄されたテレビやオートバイなどもあったといいます。
 活動を続けるうちに不法投棄をする人も減り、大きなごみは目立たなくなりました。見た目には海がきれいになっていきました。
 ところが、別の問題が表れました。砂浜で見られるプラスチックが小さくなってきたのです。とくに台風の翌日などは、砂浜に大量の細かいプラスチックごみが打ち上げられ、砂をすくうと、そのほとんどがプラスチックになることも。「もはや砂浜というより、プラ浜です」と奥田さん。
 記者も30分ほどプラスチックごみを集めてみました。洗濯ばさみやストローなど、元の形が分かるものはすぐに拾えます。しかし、砂に紛れた細かいプラスチックは拾うのが大変です。なかには風化して、触れると粉のように崩れるものもありました。崩れたからといってなくなったわけではなく、砂に紛れてしまうのです。
 細かくなって5ミリ以下になったプラスチックは「マイクロプラスチック」と呼ばれます。こうした細かいプラスチックは、どれだけ拾っても拾いきれません。
 「全部拾うのは無理ですね……」と弱音を吐くと、「そう。いくら一生懸命掃除しても、もはや無理なのです。私たち人間は、取り返しのつかない失敗をしてしまったと感じています」。

存在を知って考えて

 奥田さんに、それでも清掃活動を続ける理由を聞くと「プラスチックごみの存在を知ってもらいたいから」と答えました。
 鎌倉の海はアクセスが良く、清掃活動も盛んです。そんな場所にも、プラスチックごみがあります。「日本各地で同じような問題が起きていることを知り、どうしたらよいか考えるきっかけにしてもらいたい」と奥田さんは話します。

清掃参加者にプラスチックごみの現状をまとめたパネルを見せる奥田みゆきさんの写真
清掃参加者にプラスチックごみの現状をまとめたパネルを見せる奥田みゆきさん
=5月、神奈川県鎌倉市

台風後の浜ですくった砂の写真
台風後の浜ですくった砂。砂よりも細かいプラスチックが目立ちます

Challenger2
海洋研究開発機構(JAMSTEC)研究員 中嶋亮太さん
海に流出 状況捉え、食い止める

 海洋研究開発機構(JAMSジャムスTECテック)は海が専門の研究機関です。海のプラスチック問題にも取り組んでいます。
 研究員のなかじまりょうさんたちがいま力を入れるのは、日本近海にどれくらいのプラスチックがあるのか、正確に調べる方法をつくることです。
 プラスチックは砂浜だけでなく、海の表面や水中、海底など、あらゆるところから見つかっています。
 これまでに潜水調査船などの調査で、深海からもプラスチックごみ(デブリ)が確認されました。JAMSTECは、こうしたプラスチックごみの映像や画像を「深海デブリデータベース」としてウェブ上に公開しています。
 一方、目に見えないほど小さいマイクロプラスチックも、海水中を漂っています。問題となっているのは、このマイクロプラスチックが海水中にどれくらい含まれているのかを調べるのにとても時間がかかることです。
 中嶋さんたちは、ハイパースペクトルカメラという特殊なカメラを使い、飛躍的な早さで分析できる方法の開発に挑戦しています。「早く分析できれば、より広い範囲を調べることができ、精度も高まります」
 エスディージーでは、2025年までに海に漂うプラスチックの量を大幅に減らすことを目指します。実際にどれだけ減ったのかを調べ、今後も分析を続けていくことで、変化を知り、どんな対策が効果的なのかを確かめられるかもしれません。

ナノ粒子の影響心配

 「プラスチックが人体に及ぼす影響は詳しくはわかりません」と中嶋さん。JAMSTECでは大型の魚の体内に、プラスチックに含まれる添加剤がどれくらいあるのかも調べ始めています。
 中嶋さんが心配しているのはマイクロプラスチックがさらに細かくなった「ナノプラスチック」です。存在することは判明していても、今の技術では検出することが難しいため、よくわかっていません。「あまりに小さく、生物の体内に入ると脳の中にも入り込むことが知られています。魚類などの実験では、体の異変も起きています」
 また「2060年ごろには、海のマイクロプラスチックが生物に害を及ぼす濃度になる」とする研究もあります。
 プラスチックはいったん海に流れ出てしまうと、回収することはとても困難です。中嶋さんは「とにかく海に流れ出るプラスチックを止めることが必要」と警鐘を鳴らします。

水筒を持つ中嶋亮太さんの写真
ペットボトルを買わず、水筒を持ち歩く中嶋亮太さん
=神奈川県横須賀市

マイクロプラスチックを検出する装置の写真
マイクロプラスチックをすばやく検出する装置の開発が進められています

JAMSTECの「深海デブリデータベース」

www.godac.jamstec.go.jp/catalog/dsdebris/j/
深海デブリデータベースのQRコード

Challenger3
VERVE COFFEE ROASTERS店長 吉澤裕介さん
店が提供しなければ、捨てない

 2018年夏、かまくらはまにシロナガスクジラの赤ちゃんの死骸が打ち上げられ、胃の中からプラスチックごみが出てきました。これをクジラからのメッセージだとして、神奈川県は「かながわプラごみゼロ宣言」を発表。続いて鎌倉市も「かまくらプラごみゼロ宣言」を出しました。レジ袋やプラスチック製ストローの利用廃止などを求める内容です。
 環境への意識が高い米国西海岸のカリフォルニア州と、日本で店を開くカフェ「VERVEヴァーヴ COFFEEコーヒー ROASTERSロースターズ」。鎌倉ゆきした店の店長、よしざわゆうすけさんは「持続可能な社会に向けて、コーヒー店にできることは何だろう」と考え、同店は今年の春から、できる限り店内でのプラスチックの利用を減らすことにしました。

説明して理解得られる

 店内で飲む人にはマグカップかグラスで提供します。店内でも持ち帰り用の使い捨てカップを希望する人もいますが、今年からは説明をして店内は基本的に使い捨てカップはお断り。マイカップを持ってきた人は50円引きにします。
 冷たい飲み物にもストローは添えません。どうしても使いたい人には紙ストローを用意しました。
 こうした取り組みでカップを洗う量が増えたため、洗剤も植物由来のものに替えました。
 「最初は心配でした。でもお客さんとのコミュニケーションも増え、いまは理解してもらえていると感じます。小さなことですが、一人ひとりがなるべくプラスチックごみを出さないようにするところから始めればいいと思います」

吉澤裕介さんの写真
VERVE COFFEE ROASTERS店長の吉澤裕介さん(右)

VERVE COFFEE ROASTERSで出すアイスコーヒーの写真
店内で出すアイスコーヒー。プラスチック製ストローはつけません

プラスチックをめぐるあれこれを説明した図

中高生もSDGs
ケニアの女の子に布ナプキンを作って届ける
作り方も伝授 使い続けてほしい

 生理用ナプキンが買えないケニアの女の子に、布製のナプキンを届け、作り方を伝える――。大阪市の音楽活動家shihoシホさん(32)の取り組みに、中高生も参加しています。7月には大阪市で中高生らを対象に、布ナプキンを作るイベントがあります。
 shihoさんが2016年、ケニアの女子少年院で女の子たちから「ナプキンが買えない」と聞いたのがきっかけです。マットレスの切れ端や葉っぱ、新聞紙などを代用し、生理になると学校に行けなくなる人もいます。
 材料が現地でも手に入り、洗って何度でも使えることから、布ナプキンに決めました。17、18年に現地に行き、10代から20歳くらいの女の子約500人に配り、作り方も伝えました。その後のアンケートで、8割が続けて使っていることがわかりました。「作り方をもう少し詳しく教えて」という声が多く、活動の必要性を感じたといいます。
 昨年、東京都立さし高校(東京都武蔵野市)で2回、布ナプキンを作るイベントを開催。自分が作った布ナプキンを手にするケニアの子の写真を見て、「つながったという実感がわいた」と感想を寄せた生徒もいたそうです。(中塚慧)

7月20日、アサコムホール(朝日新聞大阪本社)でイベント

 対象は中学生以上の生徒と学生(定員50人)。裁縫道具やタオルなど持参。参加費無料。くわしくは応募フォーム(http://t.asahi.com/asacom)で。締め切りは7月3日。作った布ナプキンは9月にshihoさんらがケニアに届ける予定です。

関連記事

最新の記事

    記事の一部は朝日新聞社の提供です。

    • 朝学ギフト

    トップへ戻る