朝日中高生新聞
  • 日曜日発行/20~24ページ
  • 月ぎめ967(税込み)

1面の記事から

本庶 佑さん(京都大学特別教授) ノーベル医学生理学賞

2019年4月7日付

研究の道へ進んだ原点は?

楽しく、自由に

 社会や生活の節目を迎える4月。1日には平成に代わる新しい元号「れい」も発表されました。新しい時代を生きる中高生に向けて、昨年ノーベル医学生理学賞を受賞した京都大学特別教授のほんじょたすくさん(77)にメッセージをもらいました。
 本庶さんは、体内の異物から体を守ろうとする「めんえき」という仕組みを研究。その仕組みを利用して、新しいタイプのがん治療薬の開発につなげました。何に役立つかわからないことも珍しくない「基礎研究」を長年続け、その成果が認められました。
 うまくいかないときにも「考えることの大切さ」を説きます。中高生の今は「外国語を学んで世界を広げること」「意見が違ったらケンカすること」を大事にしてほしいといいます。もし苦手だなと思うことがあっても「楽しめるかどうかの問題だから気にするな」とアドバイスします。(寺村貴彰、中田美和子)

うまくいかないときはどうしますか?

常に柔軟に考えるんだ

 ほんじょたすくさんにインタビューしたのは、朝中高特派員の中学新2年。ナキオカヤドカリの繁殖に取り組む「未来の研究者」です。
 研究の道に進もうと思ったわけを質問すると、本庶さんは「医学部に入ったときに、お医者さんか病気を研究する道があった。お医者さんは自分の好ききらいで仕事をすることができず、非常に自由がない。研究はおもしろいと思ったことをやればいいから、自由なほうがいいって思ったんだ」と答えます。
 特派員は6年かかって繁殖に成功したものの、研究は失敗の連続でした。その経験から「失敗したときやうまくいかないとき、どうやって次につなげますか?」と尋ねました。
 「うまくいかないときは、なぜうまくいかなかったのかを考えるんだよ。それなりの理由があるわけだからさ。そしたら次はこうしようとかって、君も考えるでしょ。ジーッと観察して、ヤドカリがあまりハッピーではなさそうな顔をしてたら、もうちょっと水を増やしてみるとか。研究って、そういうことなんです」
 日々の実験がうまくいかないことと、何年も続けた研究の成果が出ないことは、次元が違う話といいます。壁にぶちあたったら別の方向に進んでみるなど、常に柔軟に考えます。

研究に不可欠なのは アイデア・仲間・お金

 研究を進めるうえで、困ったことは2点あると明かす本庶さん。一つは「仲間を集めること」。一人でできる実験もありますが、医学の研究は何人かのチームで行う必要があります。もう一つは「研究費を稼ぐこと」。アイデアは自分の中にありますが、それを実現させるにはお金を集めなければなりません。
 特派員は日々の研究で、小さな発見を繰り返し、大きな発見ができることがおもしろいと感じています。免疫によるがん治療法の発見の前に、本庶さんにも小さな発見があったのでしょうか。
 「ありましたよ、君と同じようなことですね。うまくいかないときは、いろんな人に聞くってのも役に立つ。自分と似たような分野で、違う角度から物事を見られる人と話すといいですね」
 免疫治療法の研究は、まだ始まったばかりで、どんな人にも効くわけではありません。もっとたくさんの人に効くよう、本庶さんは研究を続けます。

広い世界で「ケンカ」しろ

 天文学者になりたかったという小学生時代。中学生のころは、何になりたいかは決まっていませんでした。漠然と「会社員はおもしろくないなぁ、えらい人のいう通りに働くのはいややな」と思っていたと振り返ります。自分の好きなことができる職業を探しているうち、医学に興味を持ちました。
 「学生時代にやっていて、今につながることはありますか?」と特派員が質問しました。
 「不思議だって思ったことは、本当かどうか自分で調べてみるのが重要だと思う。英語は得意? 外国語をしっかりと勉強しておくのは非常に重要だよ。世界の人と不自由なく話ができると、自分の世界が広がるから。日本では『ケンカするな』っていうけど、それは間違ってる。殴り合いのケンカじゃなくて、口で勝てるようになろう。自分の考えを相手に理解させることが大切だね」
 学生時代、本庶さんは特に苦手な教科はなかったといいます。音楽が得意ではない特派員は、苦手教科を克服する方法を尋ねました。「音楽ってさ、好きかきらいかなんだよ。歌や楽器がうまい人もいるけど、結局は好きかどうかだよね。どんな教科でも自分が楽しめるかどうかだから、気にしなくていいんだよ」

ほんじょ・たすく 1942年、京都市生まれ。京都大学高等研究院副院長・特別教授。小学校から高校まで山口県宇部市で過ごし、京都大学医学部に入学。同大を卒業後、大阪大学医学部教授、京都大学医学部教授、静岡県公立大学法人理事長などを歴任。2018年にノーベル医学生理学賞、19年に京都府特別栄誉賞を受賞。

国内外の人とチームをつくり、新しい治療薬を研究する本庶佑さん(後方中央)の写真
国内外の人とチームをつくり、新しい治療薬を研究する本庶佑さん(後方中央)=2018年10月、ノーベル財団のツイッターから

関連記事

最新の記事

    記事の一部は朝日新聞社の提供です。

    • 朝学ギフト

    トップへ戻る