朝日中高生新聞
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海面上昇 島国の危機に知恵を!

2018年5月13日付

18、19日に「太平洋・島サミット」 福島県で

 日本など太平洋の17の国の代表者が集まり、気候変動の問題などを話し合う「太平洋・島サミット」が18、19日、福島県いわき市で開かれます。参加国のツバルなど標高の低い小さな島国は、地球温暖化による海面上昇で「島が沈む」と心配されています。サミットを機会に、同じ島国が直面する問題に目を向けてみませんか。(猪野元健)

ツバル 高潮で水浸しになる地域も

 ツバルの首都フナフティがあるフォンガファレ島は人口約4千人。面積は約157ヘクタール(東京ドーム約33個分)です。ほとんどの地域の標高が1~2メートルしかありません。
 世界の海面は過去100年の間に平均20センチほど上昇しました。ツバルの環境を研究してきた国立環境研究所のやまひろさんによると、ツバルには高潮で海面が上昇すると水びたしになる地域があります。海岸が浸食されたり、もともと湿地だった地域を開発した居住区では、海水がき出たりするといいます。
 一方、最近の研究からは、海面が上昇しても島全体の面積は変わっていないこともわかってきました。島の一部が海水に浸っても、サンゴなどのかけらが島に積み上がり、別の場所の面積が広がりました。島は再生する力を持っているようですが、「それでも将来的に危機的な状況は変わらない」と山野さんは警鐘を鳴らします。

移住用の人工島の案やマングローブの植林も

 世界の気候変動の専門家たちは、21世紀の間に進む温暖化で、海面が数十センチから1メートル近く高くなると指摘します。島の浸水地域が拡大したり、海水温の上昇でサンゴが正常に育たなくなったりする可能性が高まります。
 こうした危機に備え、ツバルでは浅瀬を埋め立てて標高5~10メートルの人工島をつくろうという案もあります。リゾート地として知られるインド洋のモルディブでは、移住のために島を広げる工事を既に進めています。
 NPO法人「国際マングローブ生態系協会」は、島国キリバスで、地元の人と協力してマングローブの植林を行っています。高波などの被害から住民の暮らしを守ることなどが目的です。理事長でりゅうきゅう大学名誉教授のしげゆきさんは、2017年度までに約13万本を植え、沿岸の道路の浸食が軽減されたと話します。
 ツバルの人工島を提案したのは、NPO法人「ツバルオーバービュー」です。代表のえんどうしゅういちさんは、ツバルの人の思いを伝える活動にも力を入れ、これまで3千人以上から話を聞きました。
 「以前は『助けてほしい』という声が多かった」と遠藤さん。いまは、小さな島国で温室効果ガスの排出は少ないにもかかわらず、「バイクが増えたので、自転車に乗り換えたほうが良い」などと、自ら課題解決に向けて考える人も増えているそうです。

【太平洋・島サミット】

 1997年から3年ごとに日本で開催。国土が狭く散らばっていることや自然災害など、共通した課題について解決策を探る。今年はキリバスやツバル、バヌアツ、ミクロネシア、オーストラリア、日本など17カ国が参加する。

太平洋の地図

温暖化が引き起こす海面上昇

「じわじわ進む世代超えた問題」
先進国の経済活動の影響が…

 海面上昇は地球温暖化によって引き起こされます。気候の問題に詳しい国立環境研究所のもりせいさんによると、石炭を燃やしエネルギーにするなど人間の活動で、二酸化炭素を中心とした温室効果ガスが増加。これが進むと、海水が温まって体積が膨張したり、寒い地域で陸上の氷が解けて海水の重量が増えたりして、海面が上がるのです。
 世界の平均気温は、過去100年間に1度ほど上昇し、このまま対策を取らなければ、今世紀中に4度上がると予測されます。2015年に190カ国以上が参加して、地球温暖化対策の国際ルール「パリ協定」が採択されました。石炭などの化石燃料を大量に使い始めた18世紀後半と比べて、長期的に気温の上昇を2度より低く抑え、21世紀中に温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目指します。
 ただ、世界2位の温室効果ガス排出国である米国が昨年6月、パリ協定からの離脱を表明し、大きな打撃となりました。「2度未満」の目標を達成しても、過去に排出された温室効果ガスによる気温上昇は避けられず、2300年までに海面は最大1.2メートル高くなるとの研究報告もあります。
 日本でも、大幅な海面上昇で砂浜が失われることが心配されています。南端にあり標高1メートルとされるおきとり島(東京都がさわら村)などが浸食されて、漁業や地下資源の開発が可能になる「排他的経済水域」に影響が出るかもしれません。
 江守さんは「海面上昇はじわじわと進む、世代を超えた問題」と指摘します。深刻な被害を受けるのは、経済活動が活発で温室効果ガスをたくさん出した先進国ではなく、排出が少ない地域の人たちです。
 「いま世界では二酸化炭素排出ゼロに向けた挑戦をしています。中高生のみなさんには島国のことを想像し、新しい発電の方法など問題解決に向けて考えてみてほしい」

グリーンランドの海岸の写真
デンマークの自治領グリーンランドでは、毎年大量の氷が解けて失われています
どれも(C)朝日新聞社

海氷の上を歩くホッキョクグマの写真
海氷の上を歩くホッキョクグマ。温暖化が進むと生息域が減ると心配されています
=ノルウェー領スバールバル諸島

 日本が設定する排他的経済水域を示した地図

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