朝日中高生新聞
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自分の頭と心で考えよう

2017年8月6日付

国連の軍縮部門トップ なかみついずみさん

 国連の軍縮部門のトップ・軍縮担当上級代表に今年、なかみついずみさんが就任しました。国連本部の日本人では、最高位の職員の一人です。6日に広島市で、9日に長崎市で行われる平和式典に出席する予定です。式典を前に3日、朝中高特派員のかなさん(東京都あきしま市立しょう中3年)が中満さんにインタビューしました。(八木みどり、松村大行)

広島・長崎で式典に参加 被爆者の声を国連へ
国際社会で活躍する 最低限、英語はりゅうちょう

 中満さんは、1989年に国連に入り、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や平和維持活動(PKO)局などで活躍してきました。「現在は、国連本部で約束事を作る仕事が多い。紛争の現場で長靴をはいて働くのも好きだったのですが、今はきちっとした格好をするので、肩がこります」と笑います。
 紛争や軍縮に関わる仕事というと、女性には難しいのでは、と思う人もいるかもしれませんが、「危険な場所に行くから女性に向いていないということは全くありません。むしろ、私は、小柄だから圧迫感がなく、現場の緊張感を和らげるという点ではプラスになったかも」と話します。
 7月には、中満さんが中心的な役割を担い、核兵器禁止条約が採択されました。ただし、唯一の被爆国である日本はこの条約交渉会議には不参加でした。この件をどう思うかとの質問に対しては「日本国内で、この条約について議論し、深く考える機会を持ってほしい」と呼びかけました。
 子ども時代を尋ねると、「普通の子でした」。一方で「新しいことへの興味は強かったかもしれません。努力して新しいことを勉強するのは好きだったと思います」。
 今年は広島、長崎の平和式典にも出席します。小学生の頃にも訪れたことがある場所で、その時の記憶は大きな衝撃として今でも残っているそうです。「(式典への出席は)核軍縮を進めるためにどんなことをしていくのか、きちんと考える機会にしたいです。被爆者の方とも会う予定なので、そのお話を受け止めて、国連に持ち帰りたい」
 先月には、自身の歩みをまとめた『危機の現場に立つ』を出版しました。著書の中には、自分の価値観や行動を律するための「モラル・コンパス(倫理基準)」という言葉がたびたび登場します。
 金井さんが「中満さんにとってのモラル・コンパスとは?」と質問すると、中満さんが引き合いに出したのが、格安航空会社を利用した車いすの男性が搭乗を一時断られた上、階段式のタラップを腕の力で上らされた問題。「規則だからといって、それを『おかしい』と言う人がいなかったことがショックでした。人間にとって一番大事なのは、本質的に何をすべきか、何が大切かを自分の頭と心で考えられるようになることです」と訴えました。
 国際社会での活躍を目指す人へのアドバイスも。「伝えたい『中身』があっても、言葉を持っていないと発信できないし、理解してもらえません。少なくとも英語はりゅうちょうに話せるレベルまで勉強する必要があります」。中満さん自身、初めて海外に行ったのは大学生になってからで、苦労を重ねて英語力を身につけました。「語学力は積み重ねていけば、だれでも身につけられるので、一生懸命勉強してほしいですね」

●取材を終えて

 私は漠然と国連の仕事に憧れていました。中満さんとお話をして、あらためて、国際社会はどうあるべきか、自分はどうしたいかという倫理基準に目を向けられるようになりました。そのために、さまざまな人と接し、経験をしていきたいと目標を持つことができました。(金井紀乃音さん)

核兵器禁止条約交渉会議の冒頭に演説する中満さん(中央)=6月15日、米国ニューヨークの国連本部の写真
核兵器禁止条約交渉会議の冒頭に演説する中満さん(中央)=6月15日、米国ニューヨークの国連本部
(C)朝日新聞社

中満さんの著書『危機の現場に立つ』の写真
中満さんの著書『危機の現場に立つ』(講談社、1512円)

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