朝日中高生新聞
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「原則40年」の原発運転期間を延ばす動き

2017年3月12日付

 東京電力福島第一原子力発電所(原発)の事故から11日で6年になった。事故を反省して安全基準をより厳しくした新しい規制基準ができ、これまでに3原発5基が再稼働した。ただ、「原則40年」と法律で決まった運転期間の延長が、例外的に認められる原発も現れている。

6年前の福島の事故で覆された日本の原発の「安全神話」

規制委が新基準で再稼働の可否を審査

 火力発電は石油やガスを燃やして発電するが、原発はウランが核分裂する際の熱を使う。大きなエネルギーが得られる半面、放射能の極めて強い高レベル放射性廃棄物が核のゴミとして出るのが欠点の一つだ。
 2011年3月11日の東日本大震災の前、日本では54基の原発がすべての電力の3割近くを発電していた。しかし地震と津波により、福島第一原発では非常用の発電機が使えなくなり、運転中だった1~3号機が超高温の核燃料を冷やせなくなった。核燃料が溶け落ちるメルトダウン(しんようゆう)も起こり、放射性物質が福島県などの広い範囲にまき散らされた。
 これほどの事故は、世界でも1986年に旧ソ連で起きたチェルノブイリ原発事故しか例がない。それまでの日本には、「日本の原発で大きな事故は起こらない」という「安全神話」があり、大きな事故を防ぐ対策や、事故が起きた時に被害を少なくする対策が不十分だった。
 このため、強い権限を持って原発の安全性を審査する「原子力規制委員会」が発足。規制委は、地震や津波といった自然災害だけでなく、テロなどが起きても被害が大きくならないよう安全対策を厳しくした新基準をつくり、審査で認められないと運転できないことになった。これまでに16原発26基で審査が始まり、6原発12基が基準を満たすと認められた。このうち、3原発5基が再稼働した。

1回だけ最長20年延長できる例外規定、すでに3基を承認

裁判所が運転に「待った」をかける例も

 事故で炉心溶融した福島第一原発1~3号機は、いずれも運転開始から35年以上の古い原発だったことから、事故後、原発の運転期間を40年までにするよう法律が変えられた。ただ、規制委が認めれば、1回だけ最長20年延長できる例外が設けられた。
 しかし、実際にはこの例外が認められる原発が2016年に相次いだ。いずれも福井県にある関西電力(関電)のたかはま1、2号機とはま3号機の計3基で、古くなった電気ケーブルを交換する工事などが進んでいる。このほか、茨城県にある日本原子力発電の東海第二原発も来年40年を迎える。古い原発の運転を延長しようという動きはこれからも続く見通しだ。
 一方、関電高浜原発3、4号機(福井県)は16年1~2月に再稼働した直後の3月に、大津地裁から運転を止めるよう仮処分が出された。地震への対策に不安が残るといった住民の訴えを裁判所が認めた。こうした訴えは全国で相次いでおり、規制委が認めても裁判所が「待った」をかける例が今後も出るかもしれない。
 ドイツや台湾が原発をやめると決めるなど、世界中で原発に厳しい目が注がれている。日本の原発も先行きは不透明だ。

原発の審査状況の図
関電高浜原発3号機と4号機の写真
いったん再稼働したものの、大津地裁の仮処分決定を受けて運転できない状態が続く関電高浜原発3号機(奥)と4号機=福井県高浜町
(C)朝日新聞社

石塚広志記者の写真
解説者
いしづかひろ
朝日新聞科学医療部記者

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