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2017年2月12日付
大学で軍事研究を行うことは許されるか。大学などの研究者で作る日本学術会議が4月に結論を出すべく議論している。研究費が不足する研究者は、軍事関連の予算であっても手を出したいところだが、軍事研究は機密性が高くて自由な研究ができなくなる懸念もあり、悩ましい問題になっている。
日本の大学は戦後、軍事研究との間に一線を引いてきた。高度な科学技術が使われた第2次世界大戦で、日本の多くの科学者が戦争に動員された反省から、日本学術会議は発足の翌年の1950年に、軍事研究を行わない声明を出した。
67年には、日本物理学会が主催する半導体の国際会議に米軍の資金が提供されていたことが判明。国会で取り上げられて問題となり、学術会議は改めて同様の声明を出した。
それからほぼ半世紀を経た2015年度、防衛省は大学などを対象に「安全保障技術研究推進制度」という研究費制度を始めた。対象テーマは将来的に自衛隊の装備に活用できる技術の基礎研究で、1件あたり年に最大3千万円、3年で最大9千万円が支給される。
初年度は58大学が応募、4大学が審査を経て採択された。翌16年度も23大学が応募し、5大学が採択された。防衛省は来年度、この制度の予算総額を一気に10倍以上の110億円に増やし、より多くの大学の研究者を取り込むつもりだ。
過去の声明にもかかわらず多くの大学が応募した背景には、多くの研究者が研究費に事欠き、研究の継続が困難な現実がある。
大学の研究者は基本的に国から支給される研究費で研究している。国は近年、研究費を配る際に、成果が期待できる一部の研究者に重点配分する「選択と集中」の方針を採用している。すべての研究者に広く配られ、自由な研究に使うことのできる研究費(運営費交付金)もあるが、国は年々減らしている。国の研究費は全体としては増えているが、大半の研究者は研究費が尽きてしまっている。
学術会議の議論では、軍事研究に対して「大学の研究者が国の安全保障に貢献するのは国民としての義務」と支持する声がある一方、過去の声明の堅持を主張する声も強い。
とりわけ大きいのが、軍事研究の機密性に対する懸念だ。
学問は、研究成果が公開され、自由で活発な議論が行われ、それをもとに研究者が自らの創意で独創的な研究を行うサイクルで発展してきた。成果が公表できなければ、学問の府である大学は自らの首を絞めることになりかねない。
防衛省はこの制度について「研究成果は原則公開」とするが、研究の進み具合はすべて防衛省が管理することになっており、成果の公開に当たって防衛省側の「待った」がかかったり、いまは公開できてもいずれ制限されたりといった心配は尽きない。
【日本学術会議】
日本の科学者の代表機関。科学に関する重要政策を国に提案する機関として1949年、日本学術会議法に基づき設立された。全国約84万人の科学者を代表する210人の会員と約2000人の連携会員で運営される。
(C)朝日新聞社
解説者
嘉幡久敬
朝日新聞科学医療部記者
記事の一部は朝日新聞社の提供です。