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2016年11月13日付
中国が宇宙開発に力を入れている。10月17日、有人宇宙船を打ち上げ、中国最長となる30日間の宇宙実験を始めた。高い技術を身につけ、2022年の宇宙ステーション完成をねらう。日本や米国には「宇宙強国」をめざす中国への警戒心も強い。
宇宙船は「神舟11号」で、中国北西部の酒泉衛星発射センターから打ち上げられた。発射から2日後、9月に打ち上げていた実験室「天宮2号」と予定どおりドッキング。宇宙飛行士の景海鵬さんと陳冬さんが乗り移り、宇宙に長時間いる飛行士の健康への影響を小さくする研究などを進めている。
来年には、無人補給船「天舟1号」が打ち上げられ、天宮2号に燃料を供給する。このように準備を着々と進め、18年ごろから本格的な宇宙ステーション建設工事を始める予定だ。
宇宙ステーションは宇宙飛行士が生活しながら、様々な研究をする場所だ。重力がある地球では難しい実験もできる。いま宇宙には、米国やロシア、日本などが参加する国際宇宙ステーション(ISS)があるだけ。24年まで運用することは決まっているが、たくさんのお金がかかるため、その後、どうするかは未定。廃止されれば、中国が世界で唯一、宇宙ステーションを運用する国になる。
中国が宇宙開発に力を入れだしたのは1990年代。米国やソ連(現ロシア)が60年代に有人宇宙船を打ち上げたり、人類の月面着陸を成功させたりしたことと比べると、中国は数十年出遅れた。
しかし、その後は急ピッチだ。2003年に中国初の有人宇宙飛行に成功した。中国の宇宙開発の狙いは、中国の技術力の高さをアピールし、国民に「中国ってすごい」と思わせる「国威発揚」という側面が強かった。習近平国家主席は「宇宙強国を建設しよう」と呼びかけ、米ロの背中がみえるレベルまで上がってきた。月の探査にも力を入れており、20年代には人間の着陸をねらっている。
宇宙開発を加速する背景には、自国を守る安全保障上の理由もある。宇宙開発で得た高度な技術をミサイルなどの兵器開発に転用しているとみられる。宇宙にある衛星は軍事だけでなく、経済活動や天気予報など私たちの生活に欠かせない。宇宙で存在感を増すことは中国にとっては都合がいいが、他国からみれば脅威となる。
中国は宇宙開発にかなりのお金をかけているとみられるが、情報開示が不十分なうえ、政府と国有企業、軍に分かれており、全体でいくら使われているのかわからない。国際社会に対し、もっと透明性を高める必要がある。
有人宇宙船「神舟11号」を搭載して打ち上げられたロケット=10月17日、中国・酒泉衛星発射センター
どちらも(C)朝日新聞社
解説者
益満雄一郎
朝日新聞広州支局長兼香港支局長
記事の一部は朝日新聞社の提供です。