朝日中高生新聞
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子宮頸がんワクチン 接種認めた国の責任は

2016年5月8日付

 子宮けいがんワクチンの副作用を訴えている女性たちが6月にも、国と製薬会社に損害賠償を求めて集団で裁判所に提訴する。がんを防ぐ目的で始まったワクチン接種だったが、深刻な被害が相次ぎ、国は3年前に積極的な推奨を中止している。

副作用の訴えが相次ぎ、推奨を中止

「なぜ被害」女性たち集団提訴へ

 弁護団が3月末に東京都内で開いた記者会見には高校生と大学生計4人が出席した。4人はワクチンを接種した後、うまく歩けなくなったり、記憶が途切れたりする症状が出て、今も続いている。
 「なぜ被害を受けたのか知りたい」と語った。裁判では国がワクチン販売を認めた判断の是非や接種を勧めた責任を問うという。会見時で、原告は4人を含めて12人。さらに参加者を募っている。
 子宮頸がんは子宮の入り口にできるがんで、日本では年に約1万人が発病、約3千人が死亡している。性行為でヒトパピローマウイルスに感染することが原因とされる。
 ウイルスは100種類以上あり、このうちの2種類が子宮頸がん全体の50~70%の原因になっている。ワクチンはこの2種類の感染を防ぐ効果があるとされている。
 子宮頸がんワクチンは2010年から、国が接種費用の一部負担を始めた。13年4月には市町村実施の定期接種となり、小学6年~高校1年の女子は原則無料で受けられるように。しかし、接種後に健康被害を訴える声が相次いだため、厚生労働省は同年6月、接種を積極的に勧めるのを中止した。
 厚労省によると、これまでにワクチン接種を受けたのは約340万人。このうち、頭痛やだるさ、接種部位の痛み、めまい、けいれんなど副作用が疑われる症例は、昨年6月までに約2700件報告されているという。ただすべてワクチン接種が原因かどうかは明らかになっていない。

専門家の間でも割れるワクチンの評価

接種と被害の関連、調査後に判断

 ワクチンの評価は専門家の間でも分かれている。
 がんそのものを予防する効果は証明されていないものの、がんの前段階の状態を減らすというデータはあり、がんを防いでいるという考えが大勢だ。
 世界各国でも使われており、世界保健機関(WHO)は一貫してワクチン接種を勧めている。日本産科婦人科学会は、接種を受ける人が少ないままだと日本だけ子宮頸がんが減らない恐れがあると指摘している。
 一方、健康被害として指摘されているさまざまな症状は、ワクチンと関連する新しい病気の状態ととらえるべきだとする医師たちがいる。効果よりも副作用の危険性の方が大きいと主張している。
 ワクチンは現在も定期接種の対象だ。希望すれば原則無料で受けられる。厚労省は効果と副作用をよく理解して、受けるかどうか決めてほしいとしている。
 厚労省は今後、接種を受けた人と受けていない人で健康被害の症状が出る割合を調査し、ワクチン接種との関連を判断する予定だ。

記者会見で思いを語る女性たちの写真
裁判に向けた記者会見で思いを語る女性たち

子宮頸がんワクチンを注射している写真
子宮頸がんワクチンの注射を受ける女性
どれも(C)朝日新聞社

日本の子宮頸がんの罹患状況のグラフ

福宮智代さんの写真
解説者
ふくみやとも
朝日新聞科学医療部

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