朝日中高生新聞
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ミャンマー 軍政からの歴史的な政権交代

2016年4月10日付

 東南アジアの国ミャンマーで、軍事政権時代から民主化運動を続けてきたアウンサンスーチー氏が党首を務める国民民主連盟(NLD)による新政権が3月末に発足した。軍が長く支配した国での歴史的な政権交代に国民の多くは喜ぶが、解決すべき課題は多い。

軍の支配下で言論の自由なく、アジアの最貧国に

総選挙、スーチー氏率いるNLD大勝

 ミャンマーは1948年に英国の植民地から民主主義国として独立した。だが、政治が混乱し、62年にクーデターで軍が実権を握る社会主義政権が成立した。88年に民主化を求めるデモが盛り上がったが弾圧され、軍政が始まった。
 軍の支配下で言論の自由はなく、出版物は政府が検閲し、許可がないと出せなかった。政権に反対する人たちは投獄された。一方、軍幹部や軍とつながる企業家は経済的な権益を独り占めにした。独立直後は東南アジアで最も豊かだと言われたが、近隣国に追い抜かれて最貧国になった。
 独立の英雄アウンサン将軍の長女のスーチー氏は、軍政に反対し続け、計15年間、自宅に軟禁された。91年にノーベル平和賞を受賞。国民の尊敬を集め、国際社会も軍政に経済制裁などで圧力をかけた。
 軍政は2011年にテインセイン大統領に権力を譲る。テインセイン氏は検閲を廃止し、政治犯を釈放した。だが、軍政の元幹部で、国会の4分の1の議席を軍に割り当て、副大統領や国防、内務などの3大臣も軍が決められるといった軍が政治に関わる仕組みは変えなかった。
 昨年11月の総選挙で、軍の支配にうんざりしていた国民の支持を受けてNLDが大勝した。
 スーチー氏は夫(故人)と息子が英国籍のため、軍政下で定められた憲法の規定で大統領になれないが、代わりに就任したティンチョー氏は民主的に選ばれた、軍人出身でない半世紀ぶりの大統領だ。スーチー氏は新設した「国家顧問」に就任し、実質的に政権を率いる。

軍との摩擦、民族や宗教間の衝突、経済立て直しなど課題

真の民主化へ日本も官民で支援を

 NLDはいまの憲法を改正して民主化をさらに進める方針だが、立ちはだかるのが軍だ。改正には軍の同意が必要な決まりになっているが、軍が特権をそう簡単に手放しそうにない。
 また、政府によると、大小135の民族がいるとされ、少数民族の自治拡大を訴える武装闘争も続く。近年は多数派の仏教徒とイスラム教徒の間で衝突が起き、死傷者も出ている。民族や宗教の問題のかじ取りも難しい。経済を立て直して、貧しい人の生活を向上させることも必要だ。
 日本企業は民主化が進むミャンマーでのビジネスチャンスに期待する。日本は、民主主義を根付かせるためにも、こうした課題の解決に向けて官民で支援していく必要がありそうだ。

大統領就任式のための宣誓をする様子の写真
大統領就任式のための宣誓をするティンチョー氏(中央)と副大統領ら=どちらも3月30日、ミャンマー・ネピドー(C)朝日新聞社

ティンチョー新大統領とアウンサンスーチー新外務大臣の写真
大統領就任式のため議場に向かうティンチョー新大統領(手前左)とアウンサンスーチー新外務大臣

五十嵐誠さんの写真
解説者
五十嵐いがらしまこと
朝日新聞ヤンゴン支局長

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