朝日中高生新聞
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意義薄れてきた「骨太の方針」

2020年8月16日付

 政府は7月、経済や財政の戦略である「骨太の方針」を決めた。新型コロナウイルスの感染を広げないため、働き方を変えたり、東京に住む人の数が偏り過ぎないようにしたりすることなどが盛り込まれた。ただ、方針を作る意義は年々、薄れてきている。

2001年、小泉内閣から始まる

首相主導で予算の元を作る戦略

 骨太の方針の正式名称は、「経済財政運営と改革の基本方針」。首相が議長で、大臣のほか、会社の社長、大学教授などがメンバーである「経済財政もん会議」で決めている。政府が国民から税金として集めたお金を何にどのぐらい使うか決める国の「予算」に、この方針が反映される。来年の予算案は毎年夏ごろから作り始めるので、方針はその前の毎年6月ごろに決めている。今年は新型ウイルスの影響で遅れて、7月になった。
 骨太の方針は2001年、当時のいずみじゅんいちろう内閣が始めた。名前の由来は、小泉内閣の前のもりよしろう内閣のとき、当時のみやざわいち財務相が「諮問会議では骨太の議論をする」と発言したためとされている。骨太には「基本がしっかりしていること」や「がっしりとしていること」という意味がある。
 そのころの予算作りは、自民党の国会議員の影響力が大きかった。省庁や業界を代表して、予算を確保する「族議員」と呼ばれた議員が大きな力を持っていた。その一方、時の首相はなかなか大きな影響力を持てず、それを解消するための一つの方法として、首相がトップである諮問会議で、予算案の元となるような骨太の方針を作るようにした。

19年文書は01年の2倍にメタボ化

議員や省庁の注文を抑えきれず

 小泉首相は、諮問会議で自分の意向に反する族議員や省庁を「抵抗勢力」と呼んで批判し、骨太の方針をまとめていった。最初のころ、議員や省庁は猛反発したが、予算は方針を反映したものになっていった。各省庁も議員も、だんだん骨太の方針を重視せざるを得なくなり、ある程度狙い通りにはなった。しかし、最近は問題も目立つ。
 議員や省庁による、骨太の方針への影響がとても大きくなってきた。予算に反映されるなら、骨太の方針に自分たちの考えを入れようということだ。骨太の方針を作り始めたころから、こういう動きはあったが、最近は抑えきれなくなり、19年の文書は、最初の01年の約2倍にあたる75ページにまで増えた。力を持つ議員や省庁の要望が十分に取捨選択されずに盛り込まれ、首相が主導して、国の大方針を示すという当初の意味合いが薄れてしまった。
 今年はどうだったのか。自民党内からも「骨太ではなくメタボ(肥満)化している」という意見が出て、新型ウイルスの影響もあり、前年の半分ほどの分量になった。それでも、今年も自民党の会議では、政府が作った骨太の方針案にいろいろな注文がついたり、省庁の職員が議員に修正を頼んだりする姿が見られた。社会や経済の先行きが不透明になってきている今こそ、国が進むべき道を大きく示す本来の骨太の方針が求められている。

【今年の骨太の方針】
 キーワードとも言えるのが「新たな日常」という言葉だ。新型ウイルスと共に生きていくことが必要になって、満員電車で毎朝仕事に行ったり、自由に旅行に出かけたりしていた今までの生活ができなくなった。そこで、新しい働き方、暮らし方を作っていくということを方針の柱にして、デジタル化を一気に進めて行くことや、東京に集中している人口を地方に分散していくことなどを実現するとした。こうした問題はずっと指摘されていたことで、新型ウイルスが「取り組みの遅れを浮き彫りにした」とも書かれている。

■解説者
ざかなお
朝日新聞東京本社経済部記者

「骨太の方針」の変遷を示した図
(C)朝日新聞社

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