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2019年9月15日付
「冷戦終結の象徴」とも言われた、米国とロシアの間の中距離核戦力(INF=Intermediate-Range Nuclear Forces)全廃条約が8月2日、失効した。米国はその16日後に中距離ミサイルの発射実験を行った。条約がなくなったことで、中国も交えた軍拡競争が始まることを心配する声も出ている。
INF全廃条約は、冷戦下の1987年に米国とソ連が結んだ条約で、地上から発射する射程が500~5500キロの中距離ミサイルを持たないと約束したものだ。
当時、ソ連が欧州をねらって新型の中距離弾道ミサイルをたくさん配備し、米国も欧州にミサイルを置いて対抗した。両国の緊張が高まり、交渉が始まった。冷戦の終結につながった重要な条約だ。ソ連の崩壊後は、ロシアに引きつがれた。
米国は、ロシアが配備した新型巡航ミサイルが条約に反していると指摘し、ロシアはこれを否定していた。だが、米国のトランプ政権は今年2月、ロシアに条約から離脱すると通告した。両国で協議をしてきたが、決裂し、条約の規定で、通告から6カ月後に条約は失効してしまった。
ミサイル技術が広がり、いまでは米国とロシアだけでなく、多くの国が中距離ミサイルを持っている。米国は離脱の理由に、条約が対象としていない中国のミサイルの増強も挙げた。
トランプ政権はINFに代わり、米国とロシアに中国も交えた新しい軍縮の枠組みを求めている。でも、中距離ミサイルは中国の軍事戦略の柱になっているので、中国が廃棄するメリットはない。中国が加わる可能性は低いとみられる。
条約に縛られなくなった米国は8月18日、地上発射型の中距離巡航ミサイルの発射実験を行った。11月には中距離弾道ミサイルの発射実験を行う計画があると伝えられている。
ロシアのプーチン大統領は、「対抗措置をとるための準備」を命じた。条約が禁じていたミサイルの実験を始める構えを見せる。中国も強く反発している。米国とロシアに中国を加えた、新しい軍拡競争につながる恐れが強まっている。
この問題は、日本にとっても決して他人事ではない。米国は条約失効を受けて、中距離ミサイルの開発を加速させる方針だが、地上配備型の中距離ミサイルを日本を含むアジア太平洋地域に配備することを検討している。
条約が結ばれる時、中距離ミサイルを欧州では「全廃」だが、アジアでは「半減させる」という米国とソ連の最初の案に、当時の中曽根康弘首相が反対し、米国を説得して「世界で全廃」を実現させた。中距離ミサイルを持たない日本だからこそ、軍備管理で重要な役割を果たすことが期待されている。
(C)朝日新聞社
■解説者
渡辺丘
朝日新聞アメリカ総局記者
記事の一部は朝日新聞社の提供です。