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2018年12月16日付
北方領土をめぐり、安倍晋三首相は11月14日、ロシアのプーチン大統領と会談し、1956年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約を結ぶ交渉を加速することで合意した。日本政府はこれまで4島返還を求めていたが、2島の先行返還を軸に交渉する方針に転換した。
北方領土は、北海道根室市の先にある歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島の4島を指す。4島を合わせた面積は約5千平方キロあり、福岡県とほぼ同じ広さだ。日本はロシアより早く北方四島の存在を知り、日本人が住んでいた。
ところが、1945年8月、第2次世界大戦で日本が敗れた後、当時のソ連は北方四島を占領した。4島に住んでいた日本人約1万7千人は強制退去させられた。このため、日本政府は「不法占拠された」という立場をとってきた。
その後、日ソ両国は平和条約を締結しようと交渉したが難航し、国後島と択捉島の2島については意見が一致しなかった。そこで、平和条約の代わりに戦争状態の終了や国交の回復などを定めた「日ソ共同宣言」に署名。この宣言では、平和条約の締結交渉は続け、歯舞群島と色丹島の2島については、条約を結んだ後に日本に引き渡すことが明記された。
今回、首相とプーチン氏はこの宣言をもとに平和条約交渉に臨むことになる。ただ、交渉は簡単ではない。
プーチン氏は合意した翌日の記者会見で、日ソ共同宣言について「2島が誰の主権下に残るかも述べられていない」と語った。仮に日本に歯舞群島と色丹島の2島を引き渡したとしても、日本が統治する「主権」を認めるかどうかわからないとの考えを示した形だ。
引き渡されても日本が統治できなければ意味がない。菅義偉官房長官は11月16日の記者会見で「歯舞群島及び色丹島が返還されれば当然、日本の主権も確認される」と反論した。
課題は他にもある。日ソ共同宣言には歯舞群島と色丹島しか記されていない。日本はあくまで「4島」の返還を求めてきた経緯がある。実際、1993年に出した日ロの「東京宣言」では、4島すべてについて、どちらの国の領土かを解決し、平和条約を結ぶ考えが記されている。
とはいえ、首相とプーチン氏が交渉の基礎とした日ソ共同宣言は両国の議会が承認した法的な拘束力がある。宣言に明記されているのは歯舞群島、色丹島だけで、残り2島の返還を実現するのはさらに難しいというのが一般的な見方だ。
このため、安倍政権は、まずは歯舞群島、色丹島の2島の返還を確実にすることを軸に進める構えだ。首相は来年1月にロシアを訪問。6月にはプーチン氏が大阪で開かれる主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)に合わせて来日することから、その際の会談で平和条約の締結について大筋合意をめざすとみられている。
どちらも(C)朝日新聞社
解説者
竹下由佳
朝日新聞政治部記者
記事の一部は朝日新聞社の提供です。