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2018年12月9日付
米国を除く環太平洋経済連携協定(TPP11)が今月30日に発効することになった。経済規模を示す国内総生産(GDP)は参加11カ国で世界の1割超に当たり、巨大な経済圏になる。参加国から輸入する食料品などが安くなり、消費者にもメリットがある。
TPP11は日本やカナダ、オーストラリアなど11カ国が参加し、輸入品にかける関税を引き下げたり、各国で違う貿易にまつわるルールを共通化したりする枠組みだ。関税が下がってルールが共通化されれば、企業や生産者は国を越えてビジネスがしやすくなり、商品やサービスを多くの消費者に売れる。
日本の消費者にとって一番身近な影響があるのは関税の引き下げだ。例えば現在はニュージーランド産のキウイには価格の6.4%の関税がかかっているが、発効後はゼロになる。カナダ産の牛肉も38.5%の関税がかかっているが、発効後に徐々に下がり、2033年4月には9%になる。
他の国も関税を下げるため日本からの輸出も増えそうだ。例えばカナダは自動車の関税を現在の6.1%から22年にゼロにするほか、日本酒や焼酎の関税もなくなる。オーストラリア向けの乗用車やトラックの新車は関税がなくなる。
各国は国内産業や雇用を守ることなどを理由に、輸入品に関税をかけ、貿易量を制限するなどしてきた。しかし近年は、各国が関税を引き下げるなどしてより自由に貿易した方が、長期的には経済全体が発展していくとの考えが主流になっている。TPP11もこうした考え方が背景にある。
TPP11はすんなりと生まれたわけではない。元々は12カ国だったTPPを主導した米国が、17年に離脱したからだ。決めたのは就任直後のトランプ大統領。米国には鉄鋼業の労働者などの間に、自由貿易のせいで仕事が失われたと考える人が多くいる。大統領選では離脱を公約にしたトランプ氏を熱狂的に支持した。
トランプ大統領はTPPのように複数の国と自由な貿易をすれば、国内産業を守れないなどデメリットの方が大きいとみている。強大な国の力を背景に他の国と一対一で交渉すれば、相手が譲って自国にもっと有利な貿易の仕組みを作れる。自由貿易を進めてきたこれまでの世界の流れとは逆行するやり方だ。
自由貿易を進めたい日本は、米国離脱後のTPP11交渉を主導してきた。ただ、日米間で関税の撤廃や削減を決める「日米物品貿易協定(TAG)」を結ぶための交渉を、早ければ来年1月から始めることになった。日本はTPPに戻ることを主張したが、同盟国である米国が一対一で交渉したいとの要求を受け入れざるを得なかった。
米国は輸出したい牛肉など農産物の関税で有利な条件を求めてくる可能性が高く、国内産業の保護も考えたい日本は厳しい交渉に臨むことになりそうだ。
(C)朝日新聞社
トランプ大統領(右)との首脳会談に臨む安倍晋三首相。この首脳会談で、日米物品貿易協定(TAG)、他の重要な分野(サービスをふくむ)で交渉を始めることで合意した=2018年9月26日、米ニューヨーク
(C)朝日新聞社
解説者
西山明宏
朝日新聞経済部記者
記事の一部は朝日新聞社の提供です。