- 日曜日発行/20~24ページ
- 月ぎめ967円(税込み)
←2020年3月16日以前からクレジット決済で現在も購読中の方のログインはこちら
2018年1月28日付
将棋棋士の羽生善治さん(47)と囲碁棋士の井山裕太さん(28)に国民栄誉賞が授与されることが決まった。棋士の受賞は初めてとなる。2人のこれまでの活躍が「歴史に刻まれる偉業」と評価された。表彰式は2月13日に首相官邸で行われる。
2人のこれまでの活躍は、いずれも将棋、囲碁界の記録を塗り替えるものだった。
羽生さんは15歳でプロになった。19歳でタイトル戦の一つ、竜王戦を勝ち抜き、初めてのタイトルとなる「竜王」を獲得した。1996年には25歳で、七つのタイトルすべて(現在は全部で8タイトル)を同時に保持する「七冠」を初めて達成して注目された。
その後も常に何らかのタイトルを保持しながら活躍を続け、昨年12月には通算7期目となる竜王を獲得し、「永世竜王」を名乗る資格を得た。名人戦を制した者に与えられる「名人」など、同じタイトルを規定で決められた数以上に獲得すると得られるのが「永世称号」。一つ取るだけでも大変だが、羽生さんは「永世名人」を含め七つのタイトルで獲得し、「永世七冠」を達成した。これまでは故大山康晴十五世名人と中原誠十六世名人(70)の五つが最多だったが、これを大きく塗り替えた。
一方、井山さんは12歳でプロになり、2009年に史上最年少記録の20歳4カ月で囲碁の「名人」になった。16年には26歳で7大タイトルを同時にすべて獲得し、囲碁界初の「七冠」独占を果たした。半年あまりで名人のタイトルを失い、六冠に後退したが、その後も持っているタイトルをすべて防衛し、昨年10月に名人位を奪還し、「七冠」に返り咲いた。羽生さんもできなかった偉業だ。ほかにも世界棋戦のLG杯で、世界最強とされる中国の柯潔九段(20)を破って決勝に進出。日本の囲碁界の先頭に立って活躍し続けている。
国民栄誉賞は「広く国民に敬愛され、社会に明るい希望を与えることに顕著な業績があったもの」を基準に、その時々の首相が決める。これまでは、通算本塁打で世界記録を達成したプロ野球の王貞治さんが1977年に受賞して以来、23人と1団体が受賞した。スポーツ選手や芸能人、作曲家が多く、プロ棋士の受賞者はいなかった。
今回の授賞理由は「歴史に刻まれる偉業を達成し、多くの国民に夢と感動を、社会に明るい希望と勇気を与えた」。
これまでも時代を代表する多くの著名棋士がいたが、それらの記録をも上回ったこと、2人の偉業が昨年ほぼ同時期に達成されたこと、将棋の中学生棋士の藤井聡太四段(15)や加藤一二三九段(78)の活躍で業界が注目されたことなど、追い風となるような好材料も重なった。
記者会見で、羽生さんは「私個人の活動というより将棋界の歴史の積み重ねが併せて評価されたのではないか」、井山さんは「長い歴史がある囲碁界全体を評価していただけたことは大変光栄」と語り、自分のことよりも将棋・囲碁界への評価として喜んだ。
2人の年齢差は19歳あるが、両者の歩みを見ると七冠達成時の年齢やタイトル獲得ペースなど似た点が多い。羽生さんは井山さんのことを「現在進行形で囲碁の歴史をつくられている棋士」と評価。井山さんは羽生さんのことを「大きな目標」とし、「先生のように長く活躍できる棋士であれるように今後努力したい」と話している。
はぶ・よしはる 1970年、埼玉県所沢市出身。96年、将棋界初の七冠(名人、竜王、王位、王座、棋王、王将、棋聖)同時制覇。タイトル獲得通算99期(1月27日現在)
1985年 中学3年、15歳でプロ入り
89年 史上最年少19歳で初タイトル獲得
94年 米長邦雄名人を破り、初の名人に
96年 王将を獲得し、初の七冠独占
2008年 名人通算5期で「永世名人」の資格
10年 王座戦で19連覇(連覇記録)
12年 通算タイトル獲得数81期の新記録
17年 永世竜王の資格を獲得し、「永世七冠」
いやま・ゆうた 1989年、大阪府東大阪市出身。2016年、囲碁界初の七冠(名人、棋聖、本因坊、王座、天元、碁聖、十段)同時制覇。タイトル獲得通算48期(1月27日現在)
2002年 中学1年、12歳でプロ入り
05年 16歳4カ月で一般棋戦初優勝
09年 20歳4カ月で名人に
13年 3月に棋聖を奪取し、7大タイトル戦の歴史で初めて六冠となる
16年 4月に十段を奪取し、初の七冠独占
秋の名人戦で敗れ、六冠に後退
17年 名人位を奪還し、2度目の七冠
写真はどちらも(C)朝日新聞社
解説者
村上耕司
朝日新聞文化くらし報道部記者
記事の一部は朝日新聞社の提供です。