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2015年11月1日付
今年のノーベル医学生理学賞に決まった北里大学特別栄誉教授の大村智さんは、土の中の微生物を研究することで、多くの人の命を救う薬を開発しました。微生物は食品などでも、私たちの暮らしに役立っています。(今井尚)
自然豊かな農村風景が広がる山形県白鷹町。「すずき味噌店」の鈴木徳則さんのみそ蔵を訪ねました。
蒸した大豆の香りただよう作業場の一番奥。ここでみそ作りに欠かせない「こうじ」(米こうじ)が作られていました。
こうじは、蒸した米に種こうじと呼ばれるこうじ菌をふりかけて育てたもの。塩といっしょに大豆にまぜ、たるにつめてねかせます。
こうじ菌は、大豆をおいしいみそに変える大切な微生物です。こうじ菌が作る酵素が大豆のたんぱく質をアミノ酸に、でんぷんをブドウ糖にそれぞれ変える働きをします。
その年にもよるそうですが、1年近くねかせると食べごろになります。その間も味は少しずつ変化し、2年、3年とねかせた深い味わいのものもあります。
菌が働きやすいように、温度や湿度を整えることが大切です。「菌と私は、毎日ドタバタといっしょに生活している運命共同体みたいな感じです」
さまざまな微生物の働きによって食品を作ることを醸造といいます。しょうゆ、日本酒なども醸造で作ります。
鈴木さんは学生時代、東京農業大学で醸造科学を学びました。大村智さんによって微生物が注目をあびるのは「うれしいこと」といいます。
「地球は人間が支配しているように見えて、本当は、微生物が支配していると思う時があります。その微生物を敵にするか味方にするか。みそのような発酵醸造は、微生物を味方にしてきた知恵のたまものだと思います」
パン作りには、イーストと呼ばれる酵母菌が欠かせません。パンをふくらませ、香りをつける働きをしています。パン屋に菌を届けている「ホシノ天然酵母パン種」(東京都)は、ほかにも、あま味とうま味を引き出すこうじや、パンの種類によってはまろやかな酸味を与える乳酸菌の力を使うこともあります。
技術部長の土田耕正さんたちは、世界に古くから伝わるパンの作り方を分析し、どうしてそういう過程を踏むのか、どの菌がどのような働きをしているかといったことを、最新の技術で研究しているそうです。
「世界では、微生物を守ることで、人間の健康も守られてきました。みそ、しょうゆなど、日本のすばらしい醸造の技術を使って、新たなパンを提案していきたいです」
日本を代表する米の産地、新潟県。JA全農は2007年度に、米から自動車などの燃料を作る取り組みを始めました。
作り方は、基本的に日本酒と同じです。米を微生物で発酵させ、濃度の低いアルコールを作ります。水分を取りのぞくことで、燃料として使えるようにします。植物などから作る燃料はバイオ燃料と呼ばれ、新潟県内でガソリンにまぜて売られています。
食用の米は、必要とされる量が減っています。燃料用の米を作れば農地を守ることができ、燃料もできるといいます。
ただ、昨年度で国からの補助金が打ち切られ、続けていくのが難しい状況です。担当者は「バイオ燃料の分野で日本が世界から取り残されないか心配」と話します。
みそは微生物の働きで作られます。鈴木徳則さんのみそ蔵では手作りで仕込みます=山形県白鷹町
記事の一部は朝日新聞社の提供です。