- 毎日発行/8ページ
- 月ぎめ1,769円(税込み)
2019年8月29日付
海をよごす「プラスチックごみ」の問題にいま、注目が集まっています。静岡県では、深海魚の胃の中にプラスチックごみが入っている割合が、昔に比べて増えていることが調査でわかりました。一方、美しいサンゴ礁が広がる沖縄県の海でも、貝やヤドカリの体内から、小さな破片となった「マイクロプラスチック」が見つかっています。(山本智之)
駿河湾に面した静岡市清水区の海岸には、ミズウオ=メモを見てね=という名前の深海魚が、生きたまま打ち上がります。ミズウオの体は細長くスマートで、銀色にかがやいています。
こうした現象が起こるのは、海底が急に深くなる独特の地形のため、深海魚が岸のすぐそばまで接近しやすいことが原因の一つです。特に、西風がふく日は、海の深い場所から海水がわき上がり、ミズウオが浅瀬へ運ばれやすくなります。
岸に打ち上がったミズウオを解剖すると、おなかの中から、プラスチックごみが出てくることがあります。
ミズウオは、貪欲な魚です。目の前に現れたものは、なんでもえさだと思って丸のみにする習性があります。本来のえさは魚やイカなどですが、海の中をただようプラスチックごみも、食べてしまうのです。中には、スーパーのレジ袋がつまって、おなかがパンパンにふくれたものもいます。
ミズウオの胃は細長い袋のような形をしています。プラスチックごみは食べても消化されず、胃の奥にたまりやすいのです。ごみが長い期間たまったままだと、胃の奥に「潰瘍」ができることもめずらしくありません。
東海大学海洋学部博物館の学芸員、伊藤芳英さん(55歳)によると、ミズウオを解剖し、おなかからプラスチックごみなどの人工物が出てくる割合は、1964~83年には平均で62%でした。
しかし、2001~19年(6月末現在)のデータを集計したところ、72%に増えていることが確認されました。
深海からの使者であるミズウオは、海岸だけでなく、海の中にもたくさんのプラスチックごみがあることを、私たちに伝えてくれます。
こうした事実を多くの人に知ってもらおうと、博物館では2000年から、ミズウオを使った海の環境学習に取り組んでいます。
地元の静岡県や関東地方の小中学生や高校生、一般の人など、これまでに参加した人はのべ5千人以上にのぼります。参加者には、ミズウオの体にさわってもらったり、自分の手で胃の中身を調べてもらったりしています。
参加者は、はさみを使ってミズウオのおなかを開きます。イカやイワシなどのえさに混じってポリ袋の切れはしや、丸まった化学繊維などが出てくると、おどろきの声があがります。
最近は、ミズウオが環境学習の教材になっているのを知った地元の釣り人たちが、浜に打ち上がると博物館に携帯電話で知らせてくれるようになったといいます。
伊藤さんは「ミズウオは、海の中のプラスチックごみが増え続けていることを、私たちに教えてくれる。これからも環境学習を通じて多くの人にミズウオのことを知ってもらい、海のごみを減らすにはどうすればいいのか考えるきっかけにしてもらいたい」と話しています。
世界各地の海にすむ深海魚。肉食性。最大で体長2メートルになる。
記事の一部は朝日新聞社の提供です。