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2018年6月28日付
ジャン アメリカ(米国)のトランプ大統領の発言に、またヨーロッパ(欧州)などから反発が出ているって聞いたけど。
杉山記者 そう。トランプさんは5月8日、2015年に米、イギリス(英)、ドイツ(独)、フランス(仏)、中国、ロシアとイランの間で結んだイラン核合意を離脱すると表明したんだ。米国は合意によって解除していた経済制裁を8月と11月にすべて復活させる。欧州などは、国際的な約束を一方的に白紙にもどす行為だとして反発しているよ。
ジャン 「イラン核合意」ってなに?
――イランが核開発を大幅に制限する見返りに、米欧が経済制裁をゆるめる内容で、イランが核兵器を手にすることをさまたげた歴史的な外交成果とされる。米国のオバマ前大統領が中心となっておし進めた最大のレガシー(政治的遺産)だ。
ケン トランプさんはなぜひっくり返したの。
――トランプさんは大統領選挙中からこの合意を「米国史上最悪のディール(取引)」と批判してきたんだ。オバマさんのレガシーを全否定したい思いも透けて見える。
また、トランプさんの強硬姿勢の背景には、イランと敵対するイスラエルへの気づかいもある。トランプさんの支持者にイスラエル寄りの人たちが多いためだ。
トランプさんがやり玉に挙げているのは、合意に、イランの弾道ミサイル開発の規制がふくまれていない▽核開発規制に最長15年の期限が設けられている▽中東地域でのテロ支援など「悪行」を規制対象に入れていない――などだ。トランプさんはこれらの点を合意の「欠陥」とし、修正した新たな合意を要求してきた。だが、新たな合意は簡単ではなく、トランプさんは英仏などの説得にもかかわらず、「時間切れ」で離脱を決めたんだ。
ポン 合意に参加したほかの国の反応は。
――トランプさんにとっては、離脱によってイランに圧力をかけることで譲歩を引き出したい考えだ。だが、イランが核合意を守ってきたというのが国際的な共通認識だ。原子力の平和利用推進などを目的とする国連の関連機関、国際原子力機関(IAEA、本部オーストリア・ウィーン)もたびたび確認している。
トランプさんは核開発とは無関係な問題まで持ち出して、核合意離脱を決めた形だ。米国の離脱に、合意に参加した英仏独は直ちに共同で「遺憾と懸念」の意を表明した。主要国の多くも離脱に異論を唱えた。
ジャン イランは。
――イランのロハニ大統領は「米国は決して約束を守らない」とトランプさんを批判した。イランは核開発の再開もほのめかしていて、核合意がこわれてしまうと、中東でイランを敵視するサウジアラビアなども核武装する「核ドミノ」が心配されている。そのため、欧州などは米国ぬきでの合意維持を目指している。
ケン 米国が経済制裁を復活させるとどうなる。
――欧州や日本の企業にも大きな影響が出る。米国の独自制裁が、イランと取引がある第三国の企業も制裁の対象にする「二次的制裁」という仕組みだからだ。イランの原油取引が最も大きな影響が出る。この心配から、ガソリン価格も上昇してきている。
各国が自国の企業を制裁の対象から外すように米国と交渉することになるが、米国が譲歩する可能性が低い。イランでの事業の停止を表明する欧州企業も出てきている。
ポン 今後どうなる。
――先行きは不透明だ。イランにとっては、各国が取引を見合わせ、経済的な利益が得られなければ、合意を維持する意味がない。だが、トランプさんの要求に応じて新たな合意を結ぶ見通しもない。イランの核開発への「たが」が外れる瀬戸際(分かれ目)にある。
記事の一部は朝日新聞社の提供です。