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2018年5月12日付
ジャン パパの新聞を読んでいたら、ノーベル医学生理学賞受賞者の山中伸弥さんが、記者会見で頭を下げて謝っている写真があったけど。
嘉幡記者 今年1月のことだね。山中さんが所長を務める京都大学iPS細胞研究所に所属する研究者の論文にねつ造(でっち上げ)や改ざん(悪用するための書き換え)の不正が見つかったんだ。
ジャン わぁ、大変。
嘉幡記者 ほかにも東京大学などの有名な機関で研究をめぐる不正が相次いでいる。危機感をつのらせた大学の間では、学生たちが不正に手を染めたり、巻きこまれたりしないように、独自の教育プログラムを取り入れる試みが広がり始めているよ。
ケン どんなことをやっているの?
――たとえば、滋賀県立大学の大学院では「環境研究倫理特論」という授業を通じて、学生たちが互いに意見をぶつけあいながら、不正の防止策について考えているんだ。ぼくが取材した日は高倉耕一准教授(生態学)の授業で、十数人の学生が健康器具や化粧品のチラシを持ち寄り、他社の製品とのちがいをアピールする言葉を見ながら、「どこが、どうあやしいのか。どう修正すべきか」と話し合っていたよ。
ケン 大学院生の人たちからの意見は?
――「事例の紹介ばかりで、肝心のデータがない」とか「グラフの目盛りを操作して効果を大きく見せている」といった意見が出ていたね。こうした授業は去年の秋から今年2月まで15回行われ、画像の切り貼りなどを見ぬくソフトの使い方を教えたり、研究の不正をめぐる過去の裁判記録を読み解いたりした。
ジャン でも、不正を防ぐのは難しいのでは。
――不正の中には上司の指示で組織的に行われるものがあり、若い人たちは理不尽(道理に合わないこと)な指示に従わざるを得ない。この「特論」を企画した原田英美子准教授(植物科学)は「学生にはあやしい論文や研究室を見ぬく目を持ち、近づかないようにしてほしい」と話している。
ポン ほかの大学でも取り組んでいるの?
――東京工業大学でも、大学院の修士課程で、選択科目として研究倫理の講義を行っている。ほぼ毎回グループ討議をしているんだ。過去の不正事例を題材にして、不正の起きた原因や背景などについて、学生同士で話し合っているよ。
ジャン iPS細胞研究所の研究員の不正はなぜ起きたの?
――不正をしたのは30歳代の研究者で、成果を出さないと次のポスト(役職)が得られない若手研究者の不安定な環境が、不正の背景として指摘されている。
海外では、たとえばアメリカのカリフォルニア大学の教員が、討議やロールプレー(役割演技)などのプログラムを導入し、研究者として生き残るため、自分ならどうするかを考えてもらう授業を行っている。考えに賛同した研究者たちによる同じような取り組みが各地で広まりつつあるというよ。
ケン 研究の不正を防ぐにはどうしたらいいの。
――日本では文部科学省が不正防止教育を大学などに求めているが、ビデオ教材を見ることなどが中心で、不十分との指摘は多い。一方、滋賀県立大学や東京工業大学のように学生たちが議論に加わる「参加型」の授業をカリキュラムに組みこむ例は全国でも数えるほどだ。必要な専門の教員をやとう十分なお金が大学側にないという事情もある。
専門家は「大学の研究教育の一分野として確立する必要がある。そのための予算と教員の割り当ては、ぜひとも必要だ」と指摘しているよ。
記事の一部は朝日新聞社の提供です。