民主党の小沢一郎氏の政治団体をめぐる事件

 

 

 

指定弁護士が控訴 訴訟は続く

 

 政治資金規正法違反の罪に問われている衆議院議員の小沢一郎さんに4月26日、東京地裁が無罪の判決を出しました。しかし、検察官役の指定弁護士が今月9日に控訴し、訴訟は続きます。民主党の代表などを務めた大物政治家の裁判のゆくえに注目が集まっています。

 

 

民主党議員のパーティーであいさつする小沢一郎元代表。政界に大きな影響力を持つだけに、裁判の行方が注目されている=5月12日、熊本市のホテルで©朝日新聞社

 

 

検察官役の指定弁護士は、小沢氏を無罪とした判決に対し、控訴した。「一審の判決には見過ごせない事実誤認がある」などと理由を説明した=5月9日、東京・霞が関の司法記者クラブで©朝日新聞社

 

 

 

 小沢さんってよく聞くけど、なんでそんなに有名なの?
 いま、日本で一番たくさん国会議員がいる政党は民主党で、政府の閣僚の大部分も民主党の人なんだけど、小沢さんはその民主党で代表や幹事長を務めた。
  民主党には、小沢さんを支持している人がたくさんいる。だから、小沢さんは、日本の政治を動かす影響力を持っていて、この訴訟さえなければ、もしかしたら総理大臣になるかもしれない、と思われている。

 

 そんな人でも裁判にかけられるんだ。
 いきさつがとても複雑なので、ちょっと説明しておきたいんだけど、この話、最初は「東京地検特捜部」が捜査した。だけど、疑いが十分に深まらなかったという理由で、いったんは「裁判にかけない」という結論(不起訴)になったんだ。
  次にこの話は「検察審査会」に行った。
  検察の不起訴が正しいかどうかを市民の目でチェックする「検察審査会」という国家機関が裁判所の建物の中にあるんだけど、そこが不起訴の結論を覆して「起訴すべきだ」と言ったんだ。
  その結果、ベテランの弁護士ら3人が選ばれて、特別に検事の権限を与えられた。その弁護士らは「指定弁護士」と呼ばれているんだけど、その人たちが小沢さんを起訴した。


 「罪に問われている」って、どういうこと?
 小沢さんは自分の政治団体の収支報告書にウソを書いたという疑いで裁判にかけられている。
  政治団体は、どこからいつお金を受け取ったか、何にお金を使ったか、というようなことをこと細かに国民にお知らせしなければならないんだ。「政治資金の収支の公開」と言う。
  政治活動を透明にしてチェックできるようにしておこうという狙いがある。そのお知らせ(収支報告書)にウソを書き込めば犯罪になるんだ。


 どんなウソをついたと疑われているの?
 小沢さんの政治団体が小沢さんから4億円を借り入れて土地を買ったのに、その4億円の借り入れがなかったかのようにウソをついちゃおうって、秘書たちと合意(共謀)してたんじゃないかと疑われている。


 小沢さんは「悪いことはしていない」と主張してるんだよね。
 その通り。小沢さんは、秘書に任せていて、お知らせ(政治資金収支報告書)は一度も見ていない、と主張した。でも、裁判所は「信用性が乏しい」と言って、この主張を受け入れなかった。


 じゃあ、なんで無罪になったの?
 小沢さんは4億円を秘書に渡したそうなんだけど、その後、その4億円が使われずに、小沢さんのための定期預金として「確保されている」と信じ込んだ可能性がある、と判決は言っている。
  実際には4億円は政治団体が土地を買うのに使われたんだけど、小沢さんはそれを知らなかった可能性があるというわけだ。4億円を書かなかったのは本当はウソなんだけど、小沢さんはそうとは知らず、ウソとは思っていなかった可能性があるというのが判決の結論だった。


 無罪判決が出ておしまいになったの?
 いや。検事役の指定弁護士は控訴した。今回の判決は地方裁判所で出されたもので、次は、高等裁判所(高裁)で訴訟が続く。

 

 国会議員 国会は「国権の最高機関」で、法律を制定したり、総理大臣を選んだりする。衆院と参院がある。国会議員はそのメンバーで、選挙で選ばれ、全国民を代表する。
  検察 
法務省に付属する検察庁には、「検察官(検事など)」と呼ばれる法律の専門家がいる。警察が捜査した事件について起訴する(裁判所に処罰を決めるよう求める)のが主な仕事だが、必要に応じて自分でも捜査する。
  政治資金規正法 
民主党、自民党など政党、政治家の後援会や資金管理団体などさまざまな政治団体のお金の出入りやその収支の公開について定めている。

 

 

朝日新聞報道局 奥山俊宏

 1966年生まれ。89年から朝日新聞記者。 東京社会部などを経て2006年から特別報 道チーム。ネット新聞「Asahi Judiciary」 の編集も担当。著書に『ルポ東京電力 原発危機1カ月』(朝日新聞出版)など。

 

 

2012年5月20日

 

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