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2010年1月
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15年間話せなかった妊娠中の体験伝える
被災者の願いは語り継ぐこと

幸せ運ぶ「ありがとう」を伝えたい

 中学生に阪神大震災を伝えるため、これまで話せなかった妊娠中のつらい被災体験を手記(朝中1月17日号に掲載)にまとめ、長女が通う兵庫県加古川市立平岡中に寄せた坂東尚美さん(39)。同中は、震災の犠牲者を悼む行事「1・17集会」があった15日に坂東さんを学校に招き、講演会を開きました。
参加した2年生252人は震災を経験していませんが、地震の悲惨さを伝える「人と防災未来センター」(神戸市)を訪れたり、被災地の商店街などで当時の出来事の聞き取り調査をしたりして、理解を深めてきました。濱田愛華さんは「多くの人が家族や友達を失った、恐ろしい出来事だった」と震災学習を振り返ります。
講演会で坂東さんは、「15年間誰にも言えなかった」という被災体験の手記を基に話しました。「目が覚めたらテレビが足の上にあり動かなかった」「兄は奥さんや子どもを助けられず目の前で亡くした」「避難所で配られたリンゴ。妊娠7カ月の私を気遣う多くの人たちが分けてくれた」……。生徒たちは坂東さんの体験を真剣な表情で聞き入っていました。
講演会が始まって約30分。坂東さんは「震災では感謝の気持ちを素直に伝えることの大切さも学んだ。『ありがとう』は、心が温まる幸せを運ぶ言葉。みんなももっと人に伝えてほしい」と語りかけ、講演会を終えました。生徒たちがお礼に、震災の復興を願う歌「しあわせ運べるように」を歌うと、坂東さんは涙を流しました。
生徒会長の宮崎正也君は「いま生きていることに感謝したい。当時は、水や電気も使えなかったと聞いた。ありがたみを感じ、節水や節電をするよう生徒会として呼びかけていきたい」と話します。
「15年たち、やっと震災を乗り越えられた。みんなが震災を知り、語り継いでいってもらうことが被災者の願い。話せてよかった」と坂東さん。明かした被災体験は、おなかにいた時の経緯を伝えたかった長女の輝七美さん(同中2年)の心にも響いたようです。「私はもしかしたら、ここにいなかったかもしれない。母を震災で助けてくれた人たちに『ありがとう』と伝えたい。これまで言えなかったけど、母にも『ありがとう』『ごめん』と言いたい」(輝七美さん)


(2010年1月24日)

 


地域の防災 中学生の手で
神戸・東川崎防災ジュニアチーム

 

応急手当て 学んで自分が助ける力に

 最大で震度7の地震が兵庫県南部を襲った阪神大震災。建物の倒壊や火災などで、壊滅状態になった地域もありました。被災地では、こうした突然の災害に備えようと震災後、さまざまな防災活動が始まりました。神戸市内の中学生が主体の防災組織「防災ジュニアチーム」もその一つ。若い世代の参加で防災活動を盛り上げ、地域防災の将来のリーダーを育てようという試みです。
「痛くないですか」「目は見えますか」――。市内中央区にある楠中の生徒16人が参加する「東川崎防災ジュニアチーム」。2009年12月下旬、生徒2人がペアになり、消防団の団員らから負傷者の止血や包帯の巻き方など応急手当ての方法を教わりました。2年の泉谷愛美莉さんは「簡単な応急手当ては難しくないことが分かりました。被災現場で学んだ知識を生かしたいです」と話します。
同チームは、現在市内にある16の防災ジュニアチームの先駆けとして、1996年に発足。同区東川崎地区が校区に入る楠中の有志が参加し、月1回活動しています。これまでに人工呼吸の仕方やAED(自動体外式除細動器)の使い方を学んだほか、避難所・放水作業体験などをしてきました。震災で4571人が死亡、1万4678人が負傷した神戸市。被災した同中の山口先生は「しっかりした防災教育を受けたこの子たちは、現場で人助けができるから幸せです」と言います。
震災を直接知らない生徒たちにチームに入ったきっかけを聞くと、「お父さんが消防署の職員だから」「おもしろそう」などとさまざまですが、「困った人の手助けをしたい」という思いは共通していました。リーダーの赤沢さんは、防災を学ぶ前は「誰かが目の前でけがをしていても、助けるのは自分でなくてもいいと思う部分もありました」といいますが、活動を通じて「自分から率先して手助けしようと考える勇気がついた」と話します。
同チームが発足したのは、地域に若い世代の力を導入してほしいという住民の願いからです。東川崎町自治会長の後藤さんは「地域で防災に携わる人は60歳以上が多く、高齢化が進んでいます。いつ起こるか分からない災害に備え、中学生の活動に期待しています」。


(2010年1月17日)

 


 

全盲先生の姿熱演 関東大会へ
茨城県立竹園高校演劇部(つくば市)

 目の見えない中学校教師、埼玉県長瀞町立長瀞中学校の新井淑則先生(本紙2009年11月29日号で紹介)が失明しても「教師を続ける」という夢をあきらめなかった姿を、茨城県立竹園高校(つくば市)演劇部の生徒が劇にしました。高校生の演劇大会で09年11月に県代表に選ばれ、今月16、17の両日に茨城県ひたちなか市で6都県から13校が出場し開かれる関東大会で上演します。
新井先生の著書『全盲先生、泣いて笑っていっぱい生きる』を基に、09年春に茨城県内の高校の先生が竹園高校演劇部の依頼を受けて脚本を書きました。中学校教師として働き盛りだった28歳の時に右目を、34歳の時に左目を失明、家族らの支えで立ち直り、盲導犬と一緒に公立中学校の教師に復帰できた喜びなどが盛り込まれています。タイトルは「桜の香」。新井先生と盲導犬のマーリンが、桜を見ることはかなわなくても、花の香りで春を感じることができる場面に由来しています。
演劇部員の多くは最初に脚本を読んだ時、感動して泣いたといいます。文化祭などでも上演し、客席からは「涙が出た」「やさしい気持ちになった」などの反響がありました。地区大会と県大会には、新井先生も埼玉から応援に駆けつけました。
新井先生の役を演じている佐藤宏樹さん(2年)は、「脚本を書いてくれた先生、新井先生などいろいろな人と出会い、演劇を通じて人とのつながりを感じています。劇を見てくれた人も、盲導犬や福祉のことを考えるなど、興味をつなげていってくれたら」と話します。
新井先生の妻の役を演じる對木智星さん(2年)は、演じる楽しさは「自分とは違う人のことを体験できること」と話します。「新井先生を支える奥さんの役をやってみて、助け合うことのすばらしさを感じることができた。演劇は、自分の心を育ててくれます」
練習は土日も含め、ほぼ毎日。進学校で勉強が忙しく、両立させるために練習は集中力をもって取り組みます。県、関東大会出場は、同校の演劇部にとって初めての経験。いまは関東大会に向け、今までの反省点を踏まえて演技や演出に磨きをかけています。
同校の上演はひたちなか市文化会館で、17日(日)午前9時20分から。誰でも無料で見ることができます。

(2010年1月10日)

 
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