本多 昭彦記者(朝日新聞生活部)
テレビでコウノトリが空をとんでた。すてきだね。
兵庫県豊岡市の県立コウノトリの郷公園だろ。九月二十四日に五羽が野生復帰した。
豊岡で最後の野生コウノトリが死んで三十四年、地元の人たちの保護運動は五十年もつづいてきた。百十八羽までふやし、放鳥にこぎ着けたのは歴史的に見てもすごいことだよ。
野生復帰ってむずかしいの?
トキ、ツシマヤマネコ、オジロワシ…計画進む
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職員らに見守られて大空にとび立つコウノトリ=9月24日、兵庫県豊岡市で
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トキは10年後に60羽定着へ
復帰の仕方に国際的な手引
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――豊岡は、カリフォルニアコンドルを野生によみがえらせたアメリカの取り組みをお手本にしている。カリフォルニアコンドルは、百二十五羽も野生に返した。
ポン コンドルって大きいでしょ。
――翼を広げると三メートル近いかな。動物園でふやして一九九二年から順調に野生化したのに、ことし八月、野生のひなが一羽死んだ。西ナイル熱という病気だった。親は毎年、予防注射をしていたけど、これからはひなも予防注射が必要になる。
ケン 放したあとも大変なんだね。
ジャン トキも、野生復帰させる計画があるんでしょ?
――環境省の計画では、二〇一五年ごろに六十羽のトキを定着させる。いま、佐渡トキ保護センターには八十羽がいる。コウノトリにくらべると準備はかなりおくれているね。
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保護して野生に返す試みが行われているトキ(上)ツシマヤマネコ(下)、オジロワシ(右下) |
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ジャン 残念ね。
――トキは日本産最後の「キン」が〇三年十月に死んだ。中国産トキの人工繁殖成功が九九年で、コウノトリから十年おくれた。まだまだ日があさいんだ。
ジャン 野生復帰に決まりはある?
――もちろん。国際自然保護連合という組織が、絶滅した動物や植物の野生復帰について「こういうやり方で取り組みなさい」という手引(ガイドライン)をつくっている。
ケン たとえば、どんなこと?
――長期計画をつくって、その動物が本当にいなくなったのか、エサはあるか、病気や環境汚染はないか、ほかの動植物に悪影響はないかなどこまかく調べるんだよ。
北海道のオオワシやオジロワシを保護してふやす計画も始まった。オジロワシが風力発電の羽根にぶつかって死んだ事故もあったから、その対策も研究する。
2600種の動植物が絶滅の恐れ
動物守れば人にもいい環境
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きょうのポイント
▽環境省の「レッドリスト」には、哺乳(ほにゅう)類48種ふくめ、動植物2600種あまりの「絶滅危惧種(ぜつめつきぐしゅ)」がのっている。
▽国際自然保護連合は、野生から姿を消し、人が育てるものだけになった動植物の野生復帰について、手引(ガイドライン)をつくってこまかく決めている。
▽トキ、オオワシ、オジロワシ、ツシマヤマネコなども、保護して数をふやし、野生にもどす試みが行われている。 |
ケン 野生復帰が必要なのは、数がへっていなくなりそうな動物だよね。
――環境省がまとめた「レッドリスト」に、このまま放っておくといなくなる動植物がのっている。イリオモテヤマネコなど哺乳類が四十八種、植物を入れると全部で二千六百種あまりの「絶滅危惧種」がいる。「危惧」は、とても心配されるという意味だよ。
ポン 鳥だけじゃないんだ。
――野生復帰は、たとえば福岡市動物園でツシマヤマネコをふやしている。宮城県の蕪栗沼では、全長六センチぐらいの魚ゼニタナゴ復活に挑戦している。
ケン いろんな生き物がふえてほしい。
――そうだね。動物たちがすみやすい自然は、人間にとってもくらしやすい環境なんだ。「きょうの鳥は、あすの人間」ということばがある。鳥たちがかかえる森林開発や大気汚染、水の問題などは、人間にとっても将来、大きな問題になる。
ジャン だから、鳥や生き物がすみやすいと人間も安心できるんだね。
――そういうことさ。コウノトリが自由に空をとべると、空も川も田畑も、それを見上げる人の心も三十年前、四十年前の美しさにもどるかもしれない。でも、かんたんではない。百年かかって絶滅したコウノトリを復活するには百年かける覚悟が必要だ、という研究者もいる。
ケン じゃあ、ぼくたちの仕事だなあ。
――もちろんそうだよ。宇宙船「地球号」のためにも、がんばってね。
(2005年10月8日)
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