桜井　泉記者（朝日新聞外報部）

ジャン

　台湾でもうすぐ選挙があるって聞いたけど。

　3月20日に総統をえらぶ選挙があるよ。

　総統って何なの？

　台湾を代表する大統領のような人なんだ。

　大統領」がいるってことは、台湾は中国の一部じゃなくて、ひとつの国なの？　いつもよくわからないんだ。

　中国は台湾を中国の一部だといっている。それで中国と正式なつきあいのある国は、台湾を国ではなく「地域」とよぶんだよ。

　政治や軍事では対立、でも貿易はさかん

　ポン　台湾ってどこ？　日本から近いんでしょ。 　

　――台湾は沖縄の南西にある。九州より少し小さい島で、人口は約2250万人だ。 　

　ジャン　中国との関係は？ 　

　――中国は「中華人民共和国」のことで、大陸にある広大な国だ。台湾は「中華民国」と名のっているよ。ことばは同じ中国語だけど、政府どうしは対立しているんだ。 　

　ケン　なぜなの？ 　

　――第2次世界大戦の前後に、中国大陸では国民党と共産党というふたつの政党があらそっていた。1937年、日本が中国へ侵略を進めてゆくと、ふたつの党は日本と戦うために手をむすんだ。
　でも45年に日本が戦争に負けて引きあげると、また内戦が始まった。49年に共産党が勝って中華人民共和国をつくったので、国民党の人たちは台湾ににげて、自分たちの「政府」をおいた。 　　

台湾の選挙で総統の座をあらそう、現総統で民進党の陳水扁さん（上）と国民党の連戦さん（下）

　ジャン　それが中華民国ね。まだ仲よくならないの？ 　

　――中国はいま、ものすごいいきおいで経済発展をしている。それにあわせて、中国で台湾の会社の活動が年々さかんになり、貿易もふえている。政治や軍事の面では対立していても、おたがいになくてはならない存在になっているんだ。

　ケン　日本と台湾の関係は？ 　

　――日本は第2次世界大戦後しばらくして、台湾を国としてみとめ正式につきあっていた。しかし72年になって大陸の中国と、国と国との正式な関係である「国交」をむすんだ。それからの日本は、台湾を「国」としてみとめず、ひとつの「地域」としてあつかっているんだ。

　ポン　国と地域ではあつかいがちがうの？

　――たとえば国どうし正式な関係があれば、ふつうはたがいに大使館をおいて、その国を代表する大使がいる。でも台湾との間では、そういうことはしていないんだ。 　

　ジャン　へえー。 　

　――経済や文化関係をあつかう事務所が、交流の窓口になっている。観光や貿易など、日本と台湾の経済的な関係は活発だよ。 　

　ケン　国際的には？

　――71年、中国が国連にくわわると、台湾は追放されてしまった。いま世界には190以上の国や地域があるけれど、台湾を国とみとめてつきあっているのは27か国だけなんだ。

台湾総統府の前で、陳総統の応援デモを行う人たち＝台湾・台北市で

　ジャン　総統選はどんなようすなの？

　――4年前の選挙で総統になった民進党の陳水扁さんと、国民党の連戦さんが立候補していて、どちらが勝つか予想できないほどの接戦になっているんだ。
　そして今回は選挙と同時に、中国との関係について意見を聞く「住民投票」が初めて行われる。陳さんは、大事な問題なので住民の考えを知りたいと投票をよびかけている。 　

　ケン　意見をきくのはいいことだ。

　――でも中国は、この住民投票に神経をとがらせているよ。

　ポン　どうして？

　――中国は、台湾が国として独立を宣言することをゆるさないという立場だ。住民投票が行われれば、人々の「独立したい」という気持ちが高まると警戒しているんだ。

　ジャン　日本は何ていってるの？

　――政府は台湾総統府に「住民投票のことは慎重に発言してほしい」とつたえた。中国と台湾の関係は、朝鮮半島の動きと同じくらい、日本の平和や安全にかかわりが深いから心配なんだね。アジアの国々やアメリカも気にしている。
　8年前の総統選のときは、中国が台湾の近くの海にミサイルを撃ちこむ演習をして、おどしたことがある。仲が悪くなれば台湾、中国両方の経済にとってもよくないんだ。中国の人にも冷静に見守ってほしいね。

（04年3月6日)