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2017年4月14日付
最大で震度7を記録した熊本地震から今日で1年がたちました。熊本県益城町は、震度7を2回記録し、被害の大きかった場所です。いまだがれきも残る町に、明るい声を届けたいと、小・中学生が劇団を結成し、練習にはげんでいます。(近藤理恵)
「もう1回おどりたい!」。益城町の文化会館に、子どもたちの元気な声と音楽がひびきます。ダンスをおどるのは、益城町子ども劇団「ましきっずプレイヤーず」です。
メンバーは町内の小中学校に通う17人。前回の練習で教わったばかりの振り付けを、全員がほぼ完璧に覚えています。劇団を運営する「ましきっずサポーターず」の代表・藤井ゆみさんも「子どもたちは覚えるのが早い」と感心します。
劇団は今年の2月、熊本県内で活動する演劇関係者が立ち上げました。子どもたちに読み聞かせなどをしてきましたが、「大人が与えるのではなく、子どもが自ら表現する場を作りたかった」と、講師を務める劇作家・演出家の松本眞奈美さんは言います。思いをかかえこまず、震災の経験を発信してほしいという願いもあります。町内の小中学校にチラシを配り、メンバーを募集しました。
益城町は、地震で3千棟近くの家屋が全壊。町中には、がれきや、こわれたままの家があり、復興はまだ途中です。プレハブ型の応急仮設住宅や、民間の住宅を県が借り上げる「みなし仮設」に入っている人は、約7700人にのぼります。
劇団が月2回、練習で使う文化会館も、一部がこわれたままで、震災の傷あとが残っています。
メンバーの橋本優作さん(町立広安西小6年)も避難生活を過ごしました。「地震のことを思い出すと、暗い気持ちになる。でも、おどったり声を出したりすると明るい気持ちになります」
北村幸乃さん(町立益城中1年)は「震災の後、楽しいことを思い出そうとしたら、大好きな吉本新喜劇が浮かびました。将来吉本新喜劇に入りたくて、子ども劇団に入りました」と言います。
劇団は、発声練習や体の動かし方など、基礎練習を重ね、年内に劇を発表することをめざしています。「子どもたちが経験したことを表現してほしい」という講師らの願いから、劇の内容は、これから子どもたちと話し合って決めます。
町内の仮設住宅に暮らす吉村絢音さん(町立益城中央小5年)は「劇でみんなを笑顔にしたい。地震でたくさんの人が応援してくれたので、そのお返しをしたいです」。
「地震で傷ついた人もたくさんいる」と橋本さん。しかし、前を向いています。「地震は悲しいできごとでした。でも、友だちと助け合ったことは忘れられない経験になったし、忘れたくない。劇も、見た人が希望を持てるような、震災の話にできたらいいな」
2016年4月14日にもっとも大きい地震(本震)の前に起こる前震、16日にマグニチュード(M)7.3の本震が発生。熊本県益城町と、同県西原村で震度7を観測しました。震災が原因で亡くなった「関連死」をふくめ、225人が犠牲となりました(4月11日現在)。県によると、県全体で4万4670人が仮設住宅や、みなし仮設に暮らしています(3月末現在)。被災した家屋を国などの費用負担で解体する「公費解体」は約60%が完了しましたが、長期化しています。
記事の一部は朝日新聞社の提供です。