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2016年8月18日付
魚は生ぐさいにおいがあるから、きらい――。そんな魚ぎらいの小学生でも食べられる「におわないブリ」を育てる養殖方法が開発され、今年から大手スーパーで販売されています。海外からも注目され始め、サーモンのような人気魚の仲間入りを果たす日がくるかもしれません。(寺村貴彰)
におわないブリは、本当ににおわないのでしょうか。スーパーで刺し身を買い、鼻を数センチまでの距離に近づけてみました。確かに、魚の生ぐさいにおいがまったくしません。何もつけずに食べてみると、脂がのった普通のブリです。これなら魚ぎらいの小学生でも無理なく食べることができるかもしれません。
開発したのは、クロマグロの完全養殖に成功した近畿大学が支援する企業「食縁」(和歌山県)です。近畿大学世界経済研究所教授の有路昌彦さんが代表を務めます。
大きさや形は変わりませんが、普通に養殖したブリより脂肪分が数%多くふくまれます。さっぱりとした味わいになっているといいます。
変えたのは、えさです。においの元になるのは魚の身をくだいた「魚粉」。魚粉の割合をできるだけ減らし、コーンや消臭効果のあるカテキンをまぜています。
さらに、長時間の輸送にたえられるよう、いたみにくくするフィルムも開発。これにより、西日本にある12業者で同じ条件で育てることができるようになりました。
今年1月に大手スーパーのイトーヨーカドーなどで発売されると、あつかう店が少しずつ増えて2倍の店舗数に。現在は関西と関東のイトーヨーカドー約20店舗などで買うことができます。
開発は2006年に始まりました。世界中で健康志向が広がって魚の消費量が増えている一方、海外に押され、日本の養殖魚の収穫量はこの10年で1割ほど減っています。有路さんは「日本の養殖業を救いたい」と思いました。
ブリは日本の養殖魚の4割(1位)をしめますが、海外向けにはほとんど出荷されていません。海外の人もきらう青魚のにおいをおさえられれば、新しい市場が生まれると考えました。
実際に、ヨーロッパや北アメリカからの商談も増えています。有路さんは「世界で食べられているサーモンから市場を取り返したい」と話します。
魚にフルーツを食べさせてにおいをおさえる「フルーツ魚」もあります。回転ずしチェーン「無添くら寿司」は12年、えさにミカンの皮の成分をまぜた「みかんぶり」のにぎりを出しました。発売当初は、売り上げがふつうのブリの1.5倍あったといいます。最近では、「みかんサーモン」「レモンぶり」など10種類ほどを、月替わりで出しています。
担当者は「魚のにおいが気になる人も、さわやかな風味を味わってほしいです」と話します。
有路昌彦さん
スーパーの鮮魚コーナーでは、このシールが目印です=7月、大阪市のイトーヨーカドーあべの店
記事の一部は朝日新聞社の提供です。