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2016年8月1日付
2004年に起きた新潟県中越地震で、大きな被害を受けた長岡市山古志地域。被災した住宅が「震災遺構」として保存されることになり、くずれるおそれもあった建物は補修されました。地域の人は「あの大災害を忘れないでもらいたい」と話します。夏休みに、自分の地域の震災遺構などを調べてみてはどうでしょう。(今井尚)
山の斜面に続く棚田の風景が印象的な山古志地域。12年前の中越地震で土砂くずれが発生。川がせき止められ、ダムのように水がたまり、木籠地区にあった40棟の家が水没しました。その後、被災した家は取りこわされたり、残った家々も冬の雪の重みでこわれたりして、元の姿を保つのは2棟だけになっていました。この2棟を今年2月、「震災遺構」として保存することになりました。
どちらも3階建てで、2階の半分ほどまでが土砂にうもれています。特に1棟はいたみが激しく、補強工事をしました。
木籠区長の松井吉幸さん(58歳)は「あの家は、建てて間もない建物でしたが、毎年の雪の重みなどで年々こわれていきました。少しずつ朽ちていく姿を見るのはとてもつらかった」と話します。
松井さんの家も、水没して取りこわされました。今は、現場近くの高台で暮らしています。震災遺構として保存することが決まったことについては、「何もなくなってしまったら、ここで災害があったことが忘れられてしまいます。時間がたち、被災した私たちですら、あの時のことを忘れることもあります。訪れる人たちに思い起こしてもらいたい」と話しました。
【震災遺構】地震に関連して被害を受けた建物などを、地震の記憶を将来に伝えるために保存するもの。噴火や台風によるものなどをふくめて「災害遺構」とも呼ばれます。保存にはお金がかかるほか、つらい記憶を思い出すという人もいるため、意見が分かれることもあります。
東日本大震災や4月の熊本地震の被災地でも、建物や断層などを残すことにした例があります。
震災遺構や災害遺構にくわしい関西学院大学教授の今井信雄さん(47歳)は、「災害遺構や過去に災害の起きた現場に出かけると、そこでしか感じられないものがあるはず」といいます。
災害遺構を訪れる際のアドバイスとして、①どんな災害で、どれほどの被害があったのか、資料や写真などで事前に学習してから出かける②事前学習でわからないことを現地で確かめたり、考えてみたりする③直接話を聞くことで、理解が深まることもあるので、現地で語り部や資料館などの人の話を聞いてみる――をあげます。
●関東大震災
都立横網町公園の復興記念館(東京都墨田区)には、とけた金属製の機械類などが展示されています。
●阪神・淡路大震災
神戸港震災メモリアルパーク(兵庫県神戸市)には被災した堤防の一部が保存されています=写真。北淡震災記念公園(兵庫県淡路市)には出現した断層などが保存されています。
●東日本大震災
各地に多数=写真は岩手県陸前高田市の「一本松」と被災した建物。
●カスリーン台風
カスリーン公園(埼玉県加須市)は1947年の台風で堤防が決壊した場所につくられた公園です。
●北伊豆地震
丹那断層公園(静岡県函南町)1930年に起きた北伊豆地震でできた断層のずれが保存されています。
●雲仙・普賢岳の大火砕流
旧大野木場小学校校舎=写真=や土石流被災家屋保存公園(どちらも長崎県南島原市)など。
●北海道南西沖地震
奥尻島津波館(北海道奥尻島)。津波で大きな被害を受けた青苗地区に建つ資料館=写真。災害の様子や復興の経緯を伝えます。
新潟県中越地震で土砂にうもれた建物。手前の建物を補修しました=新潟県長岡市山古志地域
水没した家屋の近くに建つ震災復興資料館「郷見庵(さとみあん)」には、当時の新聞などが展示してあります
記事の一部は朝日新聞社の提供です。