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2016年7月5日付
東日本大震災で被災した宮城県南三陸町で、増えすぎたウニをつかまえて質の高いウニに育てる新たな取り組みが始まりました。その名も「ウニノミクス」。ウニで経済復興をとげようと、三陸の若手漁業者らが挑戦しています。 (今井尚)
三陸海岸はかつて、質の高いウニやアワビが育つ豊かな漁場でした。しかし、2011年に東日本大震災が起こる前から、ウニが海藻を食べつくす「磯焼け」が問題になっていました。
海藻が減ると、アワビやそのほかの生き物も減ってしまいます。たくさんいるウニも身が少なく、商品になるものはわずかでした。
養殖業を営む高橋栄樹さん(34歳)は震災による津波で家も加工場も船も失いましたが、漁業の再開をめざし、12年9月にノルウェーの漁業の視察に参加しました。そこで、ウニを育てる技術を知りました。
日本では、小さなウニをつかまえても、育てるのによい方法がありませんでした。ノルウェーでは、魚肉や昆布を材料にしたえさでウニを育てることに成功していました。「南三陸でウニをつかまえて育てれば、ウニも売れて、磯焼けも防げる。一石二鳥になるかもしれない」
卵や稚魚から魚を育てる「養殖」に対し、若い魚や生き物を育てることを「蓄養」といいます。高橋さんは帰国後、漁業協同組合とも相談し、ノルウェーのえさや道具を使って、ウニの蓄養の実験を始めました。結果は「予想以上のできばえ」(高橋さん)。育てたウニなら、天然のウニが禁漁期の冬場も出荷できます。
今月、日本の会社がノルウェーの技術を受け継いで、えさ作りをすることが決まりました。日本で作ったえさで育てたウニが、早ければこの冬にも出荷できるかもしれません。
得られた利益は、地元の磯焼け対策に使う考えです。「磯焼けがなくなれば、アワビやほかの魚も増え、地域の発展につながる」と考えるからです。高橋さんは「世界各地の磯焼け対策にもつながれば」と願っています。
震災後、全国から訪れるボランティアや観光客に「南三陸にはおいしい海の幸があるね」と言われ、高橋さんらは自分たちのあつかう商品の価値に気づいたといいます。「もっといいものを作ろう。いま三陸の若い人のなかで漁業への意識が大きく変わりつつある」と高橋さんは話します。
記事の一部は朝日新聞社の提供です。