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2015年5月13日付
地球の400キロ上空をまわる国際宇宙ステーション(ISS)で、宇宙に生物がいるかどうかをさぐる、日本のユニークな実験「たんぽぽ計画」が始まります。宇宙人を見つける第一歩となる結果が出るかもしれません。
(寺村貴彰、吉田由紀)
たんぽぽの種が風にのって空を飛ぶように、生物が惑星のあいだを移動することがあるかもしれない――。これがISSの実験棟「きぼう」でスタートする「たんぽぽ計画」の発端です。
宇宙は、生物が生きるのに必要な空気がなく、太陽からの熱や有害な光線にさらされる厳しい環境です。きぼうの外側に実験装置「ExHAM」を取りつけ、生物がいる証拠となるDNAをさがすなどの目的で、さまざまな実験を行います。
実験は大きく分けて二つ。一つは、宇宙にただようちりをつかまえて分析すること。「シリカエアロゲル」という物質を並べ、ぶつかったちりを中に閉じこめます。1年後に回収して地球に持ち帰り、半年かけてDNAがあるかどうか調査。これを3回くり返します。
もう一つは、地球の微生物や生命のもととなる有機物を宇宙空間にさらし、変化を確認すること。物質ごとに小さい箱につめ、同様に取りつけます。微生物がどれほど生きられるかや、有機物の性質が変わるかどうかを確かめるのがねらいです。
この計画は、2007年に宇宙航空研究開発機構(JAXA)が、きぼうの船外実験を公募で選んだうちの一つです。JAXAや小惑星探査機「はやぶさ」の調査に関わったチームなど、日本の26の大学と研究機関が参加しています。
計画をまとめるのは、立ち上げから関わる東京薬科大学生命科学部教授の山岸明彦さん(分子生物学)。1990年代、飛行機で数十キロ上空の空気を調べて生物を見つけました。さらに上空だと空気がうすくなって可能性は下がりますが、「宇宙でも、もしかしたらいるかも」と考えました。
研究者のなかには「空気のないところに生物はいない」と考え、この研究に疑問を持つ人もいます。それでも、「もしいたら、世界で初めての大発見になります」。装置は4月、無事に打ち上げられ、早ければ今月中にも取りつけられる予定です。
宇宙生物を研究する学問「アストロバイオロジー」は進み、地球以外の惑星に生物がいる可能性が高まっています。山岸さんは「生命と宇宙分野がつながって新しくわかることがあります。1年半後を楽しみに待ちたい」。
この計画で宇宙のちりをキャッチするシリカエアロゲルは、見た目が寒天のようなもの。「材質はお菓子の袋に入っている乾燥剤と同じです」と開発した千葉大学大学院理学研究科の特任研究員、田端誠さんは言います。
このシリカエアロゲルの最大の特徴は、とても軽くやわらかいことです。1立方センチメートルあたり0.01グラム。つまり水の重さの100分の1です。
宇宙のちりは高速で飛んでいて、猛スピードでゲルにぶつかります。今回キャッチしたいDNAやアミノ酸などの有機物は、まさつによる熱で変化すると、後で正確に調べることができなくなってしまいます。そのため、できるだけそっと受け止めることが必要で、やわらかさが重要なのです。
透明性も高いので、どこにちりが埋まっているか、観察しやすいという特徴もあります。
とてもこわれやすいので、ロケットを打ち上げるときの揺れでもこわれないように、横と底は少しだけ重くかたいエアロゲルでつつんで二重のつくりにしています。
田端さんは「10~30ミクロン(1ミクロンは千分の1ミリ)の粒子がとれれば分析できます。どんなものがどのくらいとれるか、楽しみです」と期待しています。
取りつけるのと同じシリカエアロゲルを手に持つ山岸明彦さん=東京都八王子市の東京薬科大学
微生物や有機物を入れたユニット。10センチの正方形で厚さ2センチ。宇宙空間にさらします
田端誠さん(上)が持つシリカエアロゲル。宇宙ではこれを12枚ならべて、宇宙のちりをキャッチします=千葉市稲毛区の千葉大学
記事の一部は朝日新聞社の提供です。