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2017年11月24日付
今年のノーベル賞の授賞式が12月10日にあり、化学賞は「クライオ電子顕微鏡」の開発に力をつくした3人におくられます。どんな顕微鏡なのでしょう。この顕微鏡を使っている東京大学教授の吉川雅英さん(生体構造学)の研究室を朝小リポーターと訪ねました。(岩本尚子)
立派な校舎が並ぶ東京大学本郷キャンパスで吉川さんが、小さなアパートのような外観の建物に案内してくれました。高さ3.3メートルのクライオ電子顕微鏡が、天井の高い部屋におさまっていました。朝小リポーターはまず顕微鏡の大きさと、顕微鏡専用の部屋があることにおどろきました。
小学校の理科室にある顕微鏡は光学顕微鏡といい、見たい試料には光が当たっています。電子顕微鏡は光ではなく電子を当てることで、光学顕微鏡の1万倍も小さなつくりまで見ることができます。
ただ、電子を当てると生物の組織はこわれてしまいます。それに、電子顕微鏡の中は空気がまったくない真空の状態にしなければならないので、水分がある物は見られないという課題があり、生物の細かい構造を知る研究に電子顕微鏡は不向きと考えられていました。
クライオ電子顕微鏡のクライオは低温という意味。1980年代から開発が始まりました。見たい物を一気にこおらせてマイナス180度に保ちながら、電子を当てて写真を撮ります。いろいろな角度から撮ったたくさんの写真の情報をコンピューターで解析することで、3次元の形を解明できるようになりました。
吉川さんの研究室では、細胞の表面に生えている「べん毛」や「せん毛」の構造を調べています。
「エアコンのフィルターをそうじしたことはありますか?」と吉川さんは朝小リポーターに問いかけました。フィルターがよごれることでわかるように、空気には目に見えないほこりやウイルスがふくまれます。私たちが吸う空気も同じですが、気管でせん毛が自動的に動き、外に出しています。
吉川さんたちの研究で、せん毛のしくみがわかってきました。「400~600種類の部品でできていて、一つでも欠けると動かなくなるんです」。せん毛がうまく働かないため、かぜをひきやすくなるなどの病気があります。「どうして病気が起こっているのかわかれば、将来的には治療する作戦が立てられます」
クライオ電子顕微鏡を使って生体の分子構造を調べる分野で30年以上リードしてきた3人におくられます。スイスのジャック・デュボシェさん(75歳)、アメリカのヨアヒム・フランクさん(77歳)、イギリスのリチャード・ヘンダーソンさん(72歳)です。
私は「細胞の中を、ふたを外して部品を一つひとつ外していくように見てみたい」という思いから研究を始めました。子どものように持った疑問を、何とか実現させたいと思うことが大事なのかなと思います。みなさんも疑問を持つことから始めてくれるといいなと思います。
先生がとても優しく、ていねいに説明してくれてわかりやすかったです。難しい言葉もたくさん出てきたけど、これからもっと勉強して、わかるようになりたいと思いました。
記事の一部は朝日新聞社の提供です。