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2017年11月8日付
今年のノーベル医学生理学賞は、生物が約1日のリズムをきざむ「体内時計」のしくみを明らかにしたアメリカの3人の研究者におくられます。体内時計の分野で受賞者が出るのは初めてですが、中学生・高校生向けの教科書にのるほど広く知られる現象で、子どもの生活に関わる発見も続いています。(松村大行)
生物の体が独自にリズムをきざむことは、古くから植物について知られていました。1729年にはフランスの研究者が、オジギソウは暗い場所に置き続けても日中に葉を開き、暗い時間に閉じたと報告しています。
動物で体内時計のしくみがわかってきたのは、ここ30年ほど。今回のノーベル賞受賞者が1984年にショウジョウバエから時計の働きをする遺伝子を見つけたほか、97年には脊椎動物で初めて遺伝子が特定されました。体内時計を研究する産業技術総合研究所の大石勝隆さん(47歳)によると、「ノーベル賞受賞者が出るのではと、その当時のほうがもり上がっていた」そうです。
体内時計は、脳にある「中枢時計」と、あちこちの細胞にある「末梢時計」がつかさどります。それぞれの時計が、体温調節、心拍数、細胞分裂、睡眠、免疫(体に入った菌などに反応する機能)といったさまざまな生活のリズムをきざみます=イラスト参照。
時刻を調節するのは光。目から明るい光が入ると脳の中枢時計が反応し、末梢時計に時刻を合わせるよう伝えます。
中枢時計は光で急速に調節される一方、末梢時計はじわじわとしか変わりません。飛行機で遠くの国に行くと起きる「時差ぼけ」は、中枢時計と末梢時計のこの違いが関わっているのではと考えられています。
体内時計には後ろにずれやすく、前にずれにくい特徴も。大石さんによると、多くの人が夜ふかしはしやすく、早起きが難しいのは、この特徴からきているそうです。
発明王エジソンが電球を世に出してから百数十年。夜でも街が明るく照らされ、便利なものの、体内時計のしくみは夜が暗かった時代から変わりません。そのずれが、さまざまな体の不調に関わっているとみられます。
代表的なのが睡眠への影響です。子どもは大人と比べ、浴びた光から受ける影響が大きいことが知られています。特に注意が必要なのが、スマートフォンの画面などから出る青色の光(ブルーライト)。夜に浴びると体が「朝が来た」とかん違いし、一生涯続く重い睡眠障害になやまされる危険があるそうです。
「時間栄養学」という分野も注目されています。何をどれだけ食べるかだけでなく、いつ食べるかによって、体にどんな影響が出るのかを探ります。
例えば塩分をひかえたい人は朝とらず、夜とるほうが良いことがわかっています。マウスを使った研究では、同じ物を同じだけ食べさせても、活動が活発でない時間帯(マウスの場合は日中)に食べさせたほうが太りやすかったそうです。「今後、朝と夜それぞれの時間で何を食べたほうが良いか、いろいろとわかってくるかも」(大石さん)と期待されています。
アメリカのブランダイス大学名誉教授のジェフリー・ホールさん(72歳)、ブランダイス大学教授のマイケル・ロスバッシュさん(73歳)、ロックフェラー大学教授のマイケル・ヤングさん(68歳)の3人です。ショウジョウバエを調べ、ハエの行動リズムに変化を起こす遺伝子を発見。約24時間の一定のリズムをきざむしくみを明らかにしました。
記事の一部は朝日新聞社の提供です。