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2017年10月30日付
今年のノーベル経済学賞は、「行動経済学」を研究するアメリカ・シカゴ大学教授のリチャード・セイラーさん(72歳)に決まりました。人間の心の動きを経済学にとり入れた学問で、セイラーさんは理論を発展させました。行動経済学は店やサービスで広く活用されていて、慶応大学経済学部教授の星野崇宏さん(42歳)は「理解して、かしこい消費者になること」をすすめます。(寺村貴彰)
商品をたくさん売るにはどうしたらいいだろう? インターネットに「いいねボタン」があるのはなぜだろう? この疑問の答えは「行動経済学」が教えてくれます。「経済を大きな社会の動きととらえるのではなく、人間1人の心の動きに注目した経済学の一つ」と星野さん。
「経済学」と聞くと、お金をかせぐための勉強と思うかもしれません。でも実は、「時間やお金などを上手に使って、人間が幸せになる方法を考える学問」です。頭の中で考えた予想が正しいかどうか、たくさんのデータをコンピューターで分析して答えを出します。
予想を立てるうえで、昔からある経済学では「人は自分が得するように常に正しく(合理的に)動く」と考えています。しかし、夏休みの宿題を毎日コツコツやれば困らないのに、最終日にまとめて終わらせませんでしたか? 健康に悪いとわかっているのに、ついつい甘いものを食べ過ぎませんか? 「『合理的』にあてはまらない人がいるため、一人ひとりの心の動きも考える必要が出てきました」
この分野は1950年代のアメリカで議論が始まり、ノーベル経済学賞に3回選ばれています。
行動経済学を広く応用しているのが、企業の販売戦略です。例えば、1980円、2980円、3980円のシャツがあったら、どれを買いますか。企業の販売データをみると、同じ2980円でも例のように「三つの値段の中間」にすると、「最高値」や「最安値」にしたときの2倍売れています。「人間は、選ぶときに真ん中を選びがち。企業からすれば、一番売りたい商品を真ん中に置くでしょう」
サーカスなどで動物を訓練するときに、えさを毎回ではなく、時々やる方がうまくいくことがあります。フェイスブックやツイッターの「いいねボタン」にも同じ働きがあり、ごほうびの「いいね」の数がたまに多くなると、さらに投稿にのめりみやすくなります。企業は人間の心理をうまく利用しているのです。
また手術が「3分の2成功する」と「3分の1失敗する」では、成功と聞いた方が手術を受ける人の割合が増えるそうです。
星野さんは「伝え方しだいで、人の行動は変わり、それが行動経済学のおもしろさです。みなさんは自分に必要な情報か正しく判断し、かしこい消費者になりましょう」と話します。
記事の一部は朝日新聞社の提供です。