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2017年10月8日付
ノルウェーのノーベル委員会は6日、2017年のノーベル平和賞を、国際NGO(非政府組織)で、今年7月の核兵器禁止条約成立に力をつくした「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)におくると発表しました。被爆者や、核兵器をなくす活動をしている人たちからは「核廃絶へのスタートだ」との声があがっています。(近藤理恵、前田奈津子、八木みどり、寺村貴彰)
ICANは核兵器廃絶をめざして07年にオーストリアで発足しました。日本やアメリカ(米国)、イギリス(英国)など世界101か国の468団体が参加しています。
ICANは、政府代表や市民に働きかけて、国際会議へのNGOの参加をうながしたり、日本の被爆者の声を広く世界に伝えたりして、核兵器が非人道的であることを国際社会に広めました。ノーベル委員会は「核兵器がもたらす破滅的な結果を人々に気づかせ、条約で禁止しようと草分け的な努力をしてきた」と授賞理由を説明しました。
ICANのメンバーの一つ、日本のNGO「ピースボート」は、世界各国で広島、長崎の被爆者とともに、証言を伝え、核兵器廃絶をうったえる活動をしてきました。
ピースボート共同代表でICANの国際運営委員を務める川崎哲さんは受賞の知らせを受け、「核兵器の禁止と廃絶を願って声をあげてきた全ての人たち、とりわけ被爆者に向けられたものだと思います」とコメントを寄せました。
今年8月9日、長崎の平和祈念式典で被爆者代表として「平和への誓い」を読み上げた深堀好敏さん(88歳)は「核兵器をなくすための活動をしている組織が、ノーベル平和賞を受賞することは意義があることだと思います。多くの人が核兵器について考えるきっかけになることを期待します」。
広島県福山市の高校2年生は学校の仲間と、核兵器をなくすための署名や被爆者の体験を聞き取る活動をしています。ICANの川崎さんとも交流があり、その活動を応援してくれています。
「ICANは、核兵器をなくそうという市民の思いをつなげて、世界規模で活動しているのがすばらしいです。自分も被爆者の証言を記録して発信するなど、できることを続けていきたいです」
広島市立大学広島平和研究所の副所長で教授の水本和実さんはICANについて、「核兵器禁止条約の採択に向けて、水面下で支えてきた市民団体。評価されたことは喜ばしい」と言います。
「世界各国にいるメンバーは、各国の核政策について非常にくわしい。専門家なみの知識を生かして、外交官らに助言なども行ってきました」
一方で、核兵器をなくす道のりはまだ半ばです。世界の核兵器は今も約1万5千発あり、北朝鮮も核・ミサイル開発を活発化させています。被爆国である日本は、核兵器を持つ米国に安全を保障されており、北朝鮮の脅威などを理由に、条約の話し合いに参加していません。
「核のない世界を実現するためには、核弾頭の数を減らしながら、紛争や対立をなくす努力が必要だ。条約に加わらない国がかかえる問題を解消して、加盟国を増やすことが求められます」と水本さんは話します。
核兵器の使用、開発、実験、保有など幅広く禁止する初めての条約。今年7月、国連加盟193か国中122か国が賛成して採択されました。前文は「ヒバクシャにもたらされた苦痛」を心にとめるとうたっています。
9月から署名が始まりました。発効のためには、50か国以上が署名し、国内手続きを経て批准することが必要です。これまでに53の国と地域が署名しました。核を持つ国や核を持つ疑いのある国などは参加していません。
記事の一部は朝日新聞社の提供です。