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2017年10月5日付
2017年のノーベル物理学賞は10月3日、15年の「重力波」初観測に貢献した3人のアメリカ(米国)人研究者に贈られることが決まりました。重力波の存在は約100年前に予言されましたが、確かめることはとても難しく、「最後の宿題」とも言われていました。(松村大行、寺村貴彰、今井尚)
重力波とは、物が動いた時に時間や空間が伸び縮みする「時空のひずみ」が、水面のさざ波のように宇宙空間で広がる現象です。太陽の重さの何十倍という巨大なブラックホールがぶつかった時などに観測できます。
約100年前に物理学者のアインシュタインが存在を予言しました。ただこの波を「実際にとらえられるかは疑わしい」と考えていたそうです。
その直接観測に2015年9月、米国の研究施設「LIGO」が初めて成功しました。約20か国から1千人を超える研究者がかかわっています。自然科学分野のノーベル賞受賞者は3人までというルールがあるため、長年研究を引っ張った米マサチューセッツ工科大学名誉教授のレイナー・ワイスさん(85歳)、米カリフォルニア工科大学名誉教授のバリー・バリッシュさん(81歳)、同大学名誉教授のキップ・ソーンさん(77歳)が代表して受賞します。
LIGOは米国に二つあり、1辺4キロメートルという巨大なL字形でレーザー光を2方向同時に往復させています。重力波が通過すると空間が伸び縮みします。空間の長さが変化すれば、光がもどってくるタイミングは、ずれるはずです。その時間差をとらえます。
ただ「変化する」といっても、物を形作っている原子よりさらに小さな規模です。重力波とは無関係の振動など「雑音」をとりのぞくことが重要になります。観測方法に改良を重ねた結果、地球から13億光年の距離にあるブラックホールの合体で生じた重力波をとらえることに成功しました。
重力波を使えば、光ではとらえられない、ブラックホールや誕生直後の宇宙の姿を観測できると期待されています。LIGOの成果は、「新しい天文学の扉を開いた」と評価されています。
重力波の観測は、日本でも進んでいます。東京大学宇宙線研究所が岐阜県飛騨市に「KAGRA」という施設を造り、2019年から観測を始める予定です。
研究所の所長は、15年に物理学賞を受賞した梶田隆章さんです。3日に会見を開き、「大切な分野の研究を、KAGRAで今後発展させていきたい。今回の発表は、私たちにとっても、非常に力を与えてくれるもの」と、興奮冷めやらぬ様子で語りました。
重力波が観測できたといっても、重力が空間と時間にどんな影響を与えるかを解くアインシュタインの理論が、完全に証明されたわけではありません。LIGOが初めて重力波を観測したブラックホールは、これまで考えられていたよりも重いことがわかり、「なぜこんなブラックホールがあったのか」という新たななぞも生まれています。
9月には、イタリアなどの国際共同研究チームが、LIGO以外では初めて、世界で4回目の観測に成功しました。今後、KAGRAが動き出すことで、ブラックホールなどの天体の位置がより正確にわかるようになります。精度の高いデータを集めることで、宇宙のなぞに近づくことができると期待されます。
梶田さんは「観測が進めば新しいなぞが生まれ、それを理解することでわれわれがより深く宇宙を理解することにつながっていくでしょう」。
1916年 アインシュタインが存在を予言
74年 天体観測から間接的に確認される
2002年 LIGOが観測開始
07年 ヨーロッパの「Virgo(バーゴ)」が観測を開始
15年 LIGOが重力波を初観測(発表は16年)
17年 イタリアなどの国際共同研究チームが、Virgoで観測に成功
19年 日本のKAGRAが観測開始予定
記事の一部は朝日新聞社の提供です。