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2019年7月20日付
大阪府堺市で見つかった、ペットボトルを「食べる」細菌が今、注目を集めています。プラスチックごみの削減は世界的な課題で、大阪市で先月開かれた主要20か国・地域首脳会議(G20サミット)のテーマの一つはプラごみによる海の汚染でした。
ジャン 細菌がペットボトルを食べるの?
田中誠士記者 そうなんだ。この細菌は堺市内のペットボトルのリサイクル工場で、京都工芸繊維大学の小田耕平教授(現・名誉教授)たちが見つけたよ。発見場所にちなんで「イデオネラ・サカイエンシス」と名付けられた。
ポン どう食べるの?
――ペットボトルなどの素材として使われているプラスチックの一種「ポリエチレンテレフタレート(PET)」を分解し、栄養にしているんだ。いまは奈良先端科学技術大学院大学特任准教授をつとめる吉田昭介さんたちの研究によると、特殊な2種類の酵素(分解をうながす物質)を出していることがわかったよ。厚さ0.2ミリのPETを、約1か月で二酸化炭素と水にまで分解するという。
ケン すごいね!
――2016年に吉田さんや小田さんたちが研究の結果を発表すると、世界も驚いた。細菌がどのようにPETを分解しているかについての研究が進めば、PETのリサイクルがより安く、簡単にできると期待できるね。
ジャン 海外でも研究してるの?
――17年に中国科学院などの研究チームが、酵素のうちの一つをくわしく調べて発表。18年には韓国やチリの研究チームなども次々と研究結果を発表した。
イギリスの研究チームが酵素に手を加えて分解するスピードを少し速めることに成功すると、イギリスの公共放送BBCは「ペットボトルのリサイクルに革命をもたらし、プラスチックをより効果的に再利用することを可能にする」と報道したよ。
今年になっても、ドイツのチームがもう一つの酵素の成り立ちを解き明かすことに成功するなど、研究競争は激しくなっている。吉田さんたちも、むだなく分解させるための条件を探すなど競っている。
ケン そもそも、ペットボトルのリサイクルがなぜそんなに重要なの?
――プラごみによる環境汚染が大きな問題になっているからだ。特に海には、毎年478万~1275万トンが捨てられているといわれる。一部は太陽の光や波にさらされてもろくなり、大きさ5ミリ未満の粒「マイクロプラスチック」になって海面をただよう。マイクロプラスチックの表面に有害物質がくっつき、それを魚介類が取りこむと、さらにそれを食べる人間など多くの動物に悪い影響をおよぼす恐れがあるといわれているんだ。
ポン 心配だね。
――マイクロプラスチックはすでに、海鳥や魚介類の体の中から見つかっているほか、海外では水道水や塩、ビールなど私たちが普段の生活で口にするものからも検出されている。実際に人間の便からも見つかっているんだ。
ヨーロッパ連合の専門機関は「人間の体内での動きや変化、毒性を明らかにするにはデータが十分でない。有害かどうかをはっきりと示すにはまだ時間が必要」との見方を公表しているものの、ほったらかしにしておけない問題だ。
ジャン 世界で対策しないといけないね。
――そうだね。G20サミットの首脳宣言には、2050年までに新たな海洋汚染をゼロにすることなどをめざす「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」という目標に向けて各国が取り組む、と書きこまれたよ。
飲料メーカーでつくる全国清涼飲料連合会は去年11月、家庭などから出るペットボトルを2030年度までに100%回収・リサイクルするという計画を発表したよ。
17年度のペットボトルの回収率は約92%。連合会の計画では、ペットボトルの川などへのポイ捨てを防いで回収率を上げるため、自動販売機の横に「自販機専用空容器リサイクルボックス」と名前を統一したごみ箱を置いて、分別回収を呼びかけていく。
飲料容器全体でペットボトルのしめる割合は約72%(17年度)で、年々のびているんだ。
■解説
田中誠士記者
朝日新聞科学医療部
ピンクは大事な言葉だよ
記事の一部は朝日新聞社の提供です。