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2019年5月11日付
アメリカ(米国)のトランプ大統領が3月、中東のゴラン高原におけるイスラエルの主権を正式に承認しました。ゴラン高原は、かつてイスラエルが戦争でシリアからうばった土地。国際的には「撤退するべきだ」とされてきたのに、逆の方向に進むトランプさんの判断は、世界に混乱を広げています。
ポン ゴラン高原ってどこにあるの。
高野遼記者 中東のイスラエルとシリアの国境にある高地のことだよ。大阪府くらいの広さがあり、標高は平均で1千メートルほどだ。
この土地をめぐって争いが絶えない理由は、その地形と場所にある。ゴラン高原に立つと、眼下にシリアとイスラエルが見下ろせる。ここに大砲を設置すれば、相手に対して一気に有利になるわけだ。また、乾燥した地域である中東において貴重な「水源」となる湖や川があることも、争いの火種になってきた。
ジャン どんな争いの歴史があるの。
――イスラエルとシリアはこの地をめぐり、長く対立を続けてきた。イスラエルはかつて、ゴラン高原の砲台を使ったシリアからの攻撃に苦しめられた過去がある。そこで1967年、戦争で勝ってゴラン高原をうばい取った。そのまま占領を続け、軍隊を置いてシリア側に目を光らせてきた。81年には一方的にイスラエルに「併合」し、いまでは人口の半分近くがユダヤ人になっている。残りは、「ドルーズ派」と呼ばれるアラブ人が中心だ。
しかし、武力でうばった土地をそのまま自分の領土にすることは、国際法違反だとされる。国連はイスラエルに占領地から撤退するよう求め、「併合」も無効だと決議した。米国も当時は、これらの決議に賛成している。
ケン トランプさんの発言が混乱を広げているって、どういうこと。
――トランプさんは3月、歴代の大統領の方針から一転して、ゴラン高原におけるイスラエルの主権を認める宣言をしたんだ。主権とは、その土地の統治権、支配権といった意味合いだ。つまり、イスラエルの領土だと認めたわけだ。こんな宣言をした国は過去に例がない。
ケン トランプさんはなぜこの宣言をしたの。
――宣言の理由は二つあると言われている。
一つは、「盟友」(固い約束を結んだ友だち)と言われるほど仲がいいイスラエルのネタニヤフ首相を応援するためだ。4月9日にあった総選挙に向け、ネタニヤフさんは苦戦していた。外交上の「成果」をプレゼントして、選挙戦に追い風をふかせようとしたとされる。
もう一つは、トランプさん自身の支持者へのアピールだ。トランプさんは米国で、「キリスト教福音派」と呼ばれる人たちに支えられている。福音派の多くは「イスラエルは神がユダヤ人にあたえたものだ」と信じ、イスラエル寄りの政策を歓迎する傾向にある。
ただ、トランプさんの姿勢には世界から批判が集まっている。シリアをふくむアラブ諸国はもちろん、ヨーロッパ連合や日本も反対の立場を表明している。
ゴラン高原に対するイスラエルの主権の承認のほかにも、米国のトランプ政権はイスラエルのネタニヤフ政権寄りの政策を取っています。その主なものを挙げると――。
2018年5月、米国は在イスラエル大使館を同国第2の都市テルアビブからエルサレムに移しました。トランプ大統領=写真1=がエルサレムをイスラエルの「首都」と宣言したことを受けて、「エルサレムの地位はイスラエルとパレスチナの和平交渉で決める」としてきたそれまでの中東政策を転換させました。
また、トランプ大統領は今年4月、イスラエルと敵対するイランの精鋭部隊である革命防衛隊を「外国テロ組織」に指定すると発表しました。外国政府の軍事組織をテロ組織に指定するのは初めてで、ネタニヤフ首相=写真2=はツイッターに「トランプ大統領、あなたの決断に感謝します」と投稿しました。
1946年 シリアがフランスから独立。ゴラン高原も領土の一部に
67年 第3次中東戦争。イスラエルがゴラン高原などを占領。国連安全保障理事会がイスラエルの撤退を求める決議
81年 イスラエルがゴラン高原を「併合」。国連安保理が「併合」を認めない決議
2019年 米国がゴラン高原におけるイスラエルの主権を承認
■解説
高野遼記者
朝日新聞エルサレム支局長
ピンクは大事な言葉だよ
記事の一部は朝日新聞社の提供です。