朝日小学生新聞 毎日発行 月ぎめ1,720円 ブランケット版(8ページ) 朝日小学生新聞

 

  

やなせたかしのメルヘン絵本 [114]

 

秋風のコンサート

 

 

 

 

 コンコン山のふもとのコンコン森は、深い森ではありません。
 森をぬけてから、なだらかな草の道を海に向かっておりていくと、すぐににぎやかな港町です。
 ユカのおじいさんの家は、その港町にあったので、ユカはおじいさんのところへ行くときは、いつもコンコン森をぬけていきました。
 通いなれた道なので、鼻歌を歌いながらでも道に迷ったりすることはなかったのです。
 この日は、何だかヘンでした。
 どうしても森から出られません。
 そのうちに大きな木の切りカブがある草地に出たので、切りカブの上にあがってみました。
 すると、「こらこら、すぐおりてコン。そこは、わたししかあがれないコン」と、かん高い声でいいながら、タキシードを着た大きなキツネが出てきました。
 ユカは、「あなたはコンコン森のキツネなのね。イタズラしないで、わたしを森から出してください」。
 キツネは、手に持っていた細い指揮棒で切りカブをコンコンとたたいて、「わたしはコンコン森のコンコンオーケストラのコンダクターのコンコンスキーだコン。1曲演奏したら森から出してあげるコン」というと、切りカブの上にとびあがってきました。
「人間は何もわかっていないコン。コンサートも、コンダクターも、みんな『コン』がついているのは、人間がマネしているんだコン。コンコン森のコンサートが、本当の音楽だコン」といって、指揮棒をふりあげました。
 ユカは、しかたなしに切りカブからおりて、コンコンスキーのコンサートを聴くことにしました。
 それは、何ともいえないふしぎなコンサートでした。
 風が歌いながらふいていくと、それに合わせて草や木も、音楽を演奏している感じで、さわやかでいい気持ちになりました。
 演奏が終わるとコンコンスキー氏は切りカブからおりてきて、「道はかんたんだコン」といいながら指揮棒で草をかきわけて「ほらね」といいました。
 なるほど、港町へおりていくいつもの道がそこにありました。
 おじいさんの家に着いたユカは、つかれていたのでぐっすりねむり、朝になってコンコン山の方を見てびっくりしました。
 コンコン森は、キツネ色の美しい秋の色に変わり、さわやかな秋風がふいていたのです。
 ユカの胸は熱くなり、コンコン森の方に向かって、「コンコンスキーさん、すてきな秋風のコンサートをありがとう」と、大声でお礼をいいました。

 

 

絵と文 やなせ たかし

 

 やなせたかしのメルヘン絵本 [114] 2013年10月14日付

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