松の木の歌
ものすごい大津波がやってきて、何もかもあらい流されてしまった陸前高田市の海岸は、今はすっかりあれはて、ゴミと流木でうめられて、昔の美しい砂浜の面影もありません。
そのゴミの山の上で松ぼっくりのボックリくんと桃色のカニのカニ子ちゃんが話しています。
「すごい大津波だったね。
ボクたちは岩の穴の中にいて運よく助かった」
「ボックリくんのおかげで
わたしも海に流されるところを助かったわ。
ありがとう」
「ボクたちは運がよくて助かったけれど、
この海岸にあった七万本の松の木は
全部海へ流されてしまった」
「わたし、風のふく日に
松の木さんが歌うコーラスが大好きだったの に、もう聞くことができないのね」
「ボクもだ。
ボクも松の木のコーラスが好きだった。
ボクは松ぼっくりだけど、
もし松の木になれたら
ボクもコーラスに入りたかったんだ」
そのとき、カニ子ちゃんはハサミをふり上げました。
「ボックリくん、気のせいかもしれないけど、
遠くの方でだれか歌っているみたいよ」
「本当だ! 小さい声だけど、
なつかしい松の木の歌だ」
ボックリくんとカニ子ちゃんは、ゴミの山を乗りこえて、歌声の聞こえた方へ、こけつまろびつ走っていきました。
しばらく走っていくと、ひょろひょろと背の高い松が一本だけ残っていて、枝をふるわせて歌っているのが見えました。
「ヒョロ松さんだ。
生きていたんだ!」
ヒョロ松さんとよばれた木は、カニ子ちゃんとボックリくんが来たことには気がつきませんでした。枝をふるわせて歌いつづけていました。
みなさんにわかるようにボックリくんに翻訳してもらうと、それは次のような歌になります。
♪ 陸前高田の松林
うす桃色のカニの子は
ハサミをふりふり歌うのさ
ここで生まれた命なら
陸前高田の松の木は
みんな命の友だちだ
陸前高田の松林
七万本の松の木は
ただ一本だけ生き残る
命をつなぐ
希望の木 ♪
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