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「殺傷」「兵士に」 紛争地の子どもたち

 

「遠いから知らない」ではダメ

 

 「怖い!」「なぜ?」。君たちのそんな声が聞こえてきそうです。西アフリカのナイジェリアで先月、学校が襲われ200人以上もの女子生徒が連れ去られました。世界では紛争や内戦の続く国で、多くの子どもが被害にあっています。でも、私たちの耳に入ることはあまりありません。

 

 

 

ルワンダで「少年兵」として旧政府軍に使われていた子どもたち=1994年9月、ザイールの難民キャンプ©朝日新聞社

 

 

さらわれて武器扱う教育

 

 こんな事件って多いの?
 内戦や紛争の続いている国では、子どもたちが殺されたり、さらわれて「子ども兵士」に仕立てられたりする事件があとを絶たない。
 国連の1年前の報告書『子どもと武力紛争』では、特にこうした事件が多いとアフリカや中東、アジアなどの21カ国・地域を名指ししている。前の年の事例をまとめたもので、「少年2008人と少女43人が武装勢力に兵士にされたとみられる」(ソマリア)、「66人の子どもが兵士にされ、8歳の少年もいた」(アフガニスタン)というぐあいだ。「こんなに!」と思うほどたくさんある。


 「子ども兵士」って昔からあったことなのかな。
 特に問題になったのは20年ほど前からだろう。アフリカのシエラレオネやウガンダといった国で、政府に反対する武装したグループが、町や村から子どもをさらって自分たちの兵士にする例が急増したんだ。小さな子どもは大人に逆らえないし、教えれば危ないことも平気でやるようになる。怖さを感じないよう薬を使ったり、逆らう子どもの体を傷つけたりという、ひどい例もあった。
十数年前の国連の報告書では「子ども兵士」は世界で約25万人と推定された。その3分の1は女子とみられており、兵士の身の回りの世話をさせられたり、無理やり奥さんにならされたりする例も多かった。


 なぜ、止められないの?
 国連はアフリカの事例が問題になったころから特別代表を置いて力を入れているし、いろんな国際機関や非政府組織(NGO)も頑張っている。でも、相手が政府ではなくて「政府に反対する武装グループ」が多いから取りしまりが難しい。
それに去年の報告書は、よくわからない組織による犯行が多くなり、どこで起きるか予測が難しくなったと言っている。去年の報告書にはないナイジェリアでの今回の事件は、まさにそういう例の一つだね。


 もう事件から1カ月。もっと早く手が打てそうなのに。
 それはぼくたち先進国に住んでいる者の責任が大きい。200人もの少女が連れ去られているのに、欧米や日本での報道はずいぶん小さかった。たぶんその結果、各国政府や国連の反応もにぶかった。「何とかしなければ」という声がまずインターネットで高まり、それが米大統領らを動かすことになって、やっと日本のテレビや新聞も大きく報じるようになった。


ルワンダの悲劇繰り返すな

 

 なぜ、日本のテレビや新聞は大きく報じなかったの?
 たぶんアフリカだからじゃないか。日本にとって確かにアフリカは遠い。それに「いつも、こんな騒ぎが起きている」というイメージがある。
 ちょうど20年前、アフリカ中部のルワンダという国で紛争が起き、たった3カ月間に80万人もが殺されたって知っているかい? これも当初ほとんど報じられなかった。何が起きているかよくわからなかったこともあるが、「ああ、またアフリカか……」という気持ちがあった。これは報道に関わったぼく自身が悔やんでいることなんだ。
 国連は何が起きているかわかっていたが、どの国も責任をもって対応しようとしなかった。その後、「ルワンダの悲劇を繰り返すな」とよく言うけれど、今回の対応を見ると残念ながら私たちはあまり変わっていない。


 どうすればいいのかな。
 まずは何が起きているか知るよう目をこらす。そして声をあげる。君たち一人ひとりの声は小さいけれど、それがたくさん集まれば、きっと日本の政府や国連を動かす力を持つ。「アフリカの女の子はさらわれても仕方ない」なんて絶対に思わない君たちが、世界を変えてくれると期待するよ。

 

国連の2013年『子どもと武力紛争』で取り上げられた国々
 アフガニスタン、中央アフリカ、チャド、コートジボワール、コンゴ民主共和国、イラク、レバノン、リビア、マリ、ミャンマー、パレスチナ、ソマリア、南スーダン、スーダン、シリア、イエメン(安保理が扱う国々)
 コロンビア、インド、パキスタン、フィリピン、タイ(安保理とその他の機関が扱う国々)

 

 

元朝日新聞編集委員 大妻女子大教授 五十嵐浩司

1952年生まれ。朝日新聞大阪社会部、 外報部を経てナイロビ支局長、ワシン トン特派員、ニューヨーク支局長を歴 任。大学や大学院でジャーナリズム論 や国際政治を教える。

 

2014年5月18日

 

 

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