主権者・国民の「知る権利」はどうなる?
日本の安全保障に関する秘密の情報が政府の内部から外部に漏れないようにするため、政府が新しい法律をつくろうとしています。国民にとっては、必要な情報を知ることがこれまで以上に難しくなるのではないかと心配する声が上がっています。
|
©朝日新聞社 |
Q 秘密を守るための法律をつくろうとしているの?
A そう。特定秘密の保護に関する法律、略して、特定秘密保護法という名前の法律をつくろうとしている。法案の概要が今月3日に公表された。政府としては次の国会に提出しようと考えている。
Q どんな法律なの?
A 防衛、外交、スパイ防止、テロ防止に関する情報のうち、特に秘密にしておきたい情報について、政府が「特定秘密」に指定する。その「特定秘密」を見ることができるのは、情報を漏らすおそれがないと認定された職員たちだけにする。その職員たちの家族や同居人、前科や精神疾患、飲酒の節度、経済状況などを調べて「適性」を評価する。それでももし仮に、情報を外部に漏らした人がいたときは、最長10年の懲役刑にする。
Q ふーん。何だか怖そう。
A うん。これまでも国家公務員法や自衛隊法に職員の守秘義務の規定があったんだけど、罰則は最高1年あるいは5年の懲役だった。それに比べると、一挙に罪を重くすることになる。
Q それにしても、秘密って、隠しごとみたいであまりよくないような気がする。
A それはそうだ。だけど、ほかの人に知られたくないことって、だれにでもあるよね。これは、個人だってそうだし、会社だってそうだし、政府だってそうなんだ。
特に、政府については、外国やテロリストと渡り合う中で、相手に手の内を知られたくないことがあるし、逆に、絶対に外部に漏らさない条件で外国から秘密を教えてもらうこともある。
Q 政府が国民に隠しごとしていいの?
A 鋭い質問だ。「国民主権」あるいは「主権在民」って学校で習ったかな? 国政の主権者は国民だ。政府の職員や大臣たちが秘密を扱うことができるのも、国民から「お任せします」と信託されているからなんだ。
だから、国民には「知る権利」がある。国民は、政府が何をやっているのかを十分に知ることによって初めて、選挙のときにだれを代表者に選べばいいのか、どんな政策を選ぶのが良いことなのかを判断できるようになる。
政府が大切なことを秘密にして隠すことと、国民の知る権利はどうしても衝突する。どちらを重視するかということだね。
Q どちらを重く見たらいいの?
A もちろん、国民の知る権利のほうがずっと大切だと思うね。その上で、政府の秘密を守ることとうまく折り合いをつけるバランスを考えなきゃいけない。
Q なぜ、今、この法律をつくろうとしているの?
A 結局のところ、安倍晋三さんが首相になったからということが大きいと思う。安倍さんは政府の中に「国家安全保障会議(日本版NSC)」という組織をつくって、アメリカとの情報共有も今まで以上に進めようと考えているようだ。
Q ふーん。
A これに対して「新しい法律が本当に必要なのか」という疑問の声も多い。
Q 今ある法律でいいじゃないかということだね。
A 今だって、国民に知らされるべき情報が知らされることなく隠されている実情がある。そこに秘密保護法なんかをつくったら、ますます秘密が増えて、国民が知っておくべきことまで隠されてしまう危険性が高くなる。長い目で見れば、そちらのほうが国益を害するんじゃないかと反対する意見もある。
朝日新聞編集委員 奥山俊宏
1966年生まれ。89年から 朝日新聞記者。東京社会 部などを経て2006年から 特別報道チーム。ネット 新聞「Asahi Judiciary」 の編集も担当。著書に『ル ポ東京電力原発危機1 カ月』(朝日新聞出版)な ど。
2013年9月29日 |