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公益通報者保護法って?

 

 


告発者を守る 現状は対象狭すぎ


 いじめ、恐喝、体罰……、そういう不正を身の回りで見聞きした時、それをやめさせるために声を上げることは、ほめられるべき正しい行いです。そうやって声を上げた人を報復のいじめから守ろうという考え方があります。公益通報者を保護する制度です。

 

消費者庁の資料などから イラスト:大塚洋一郎

 

食肉会社がミンチ肉を「牛100%」と偽装していた問題が2007年6月、朝日新聞の報道で発覚。役所にも内部告発がありましたが、事実上放置されたことも問題になりました。写真は、報道後に検査のためにこの会社に入る農水省の職員ら(07年6月撮影)©朝日新聞

 

 

 

 きょうはおじさんのほうから質問があるって?
 そうだ。もしいじめられている子が学校にいたらどうする?


 いじめをやめさせたいと思うな。いじめっ子たちに「そんなことするな」って言うよ。
 さすがだ。でも「そんなことするな」と言っても、いじめっ子たちは何も反省せずに、いじめを続けるかもしれないし、逆に、こっちにも、いじめをしてくるかもしれない。その時はどうする?


 うーん、負けたくないから戦う。
 本当に勇気があるね。ほめてあげる。戦う時には、学校の先生や教育委員会に事情を話して対応してもらうのも一つの方法だ。


 告げ口じゃないの?
 昔はそんなふうに考える人が多かった。でも、今は違う。監督官庁に通報したり、世の中に広く明らかにしたりして、不正をやめさせるのは、社会のためになる勇気ある正しい行いなんだ。そういうふうに前向きにとらえる人が多くなってきている。


 昔と今は違う?
 共同PRという会社が最近、「あなたが属する企業の不正を知った時、内部告発しますか?」ってアンケートで聞いたら、「告発する」と答えた人が53%いた。10年前の同じ調査では46%だったから、内部告発を肯定する人がずいぶん増えたといえるよね。


 なんで変わったの?
 10年ほど前のことなんだけど、三菱自動車が車の欠陥を隠していた問題だとか、東京電力が原子力発電所の原子炉のひび割れを隠していた問題だとか、食品の偽装だとか、そういう企業の不祥事が内部告発で次々と明らかになった。
組織に根付いてしまった不正を発見して正しくさせるのには、内部の人の告発が必要だということがわかった。


 いろんな事件があったんだ。
 一方で、告発した内部の人が仕事を奪われたり、いじめにあったり、いろいろな不利益を被っている現実も広く知られるようになった。それで、内部告発者を保護しようという法律を作ることになった。公益通報者保護法といい、2006年4月に施行された。


 そんなすごい法律ができて、役立ってるんだね。
 ところが、実際には使い物にならない、という批判が強いよ。


 え、なんで?
 公益通報者保護法は、こういう内部告発を保護します、と保護対象の範囲を限定しているんだけど、それが狭すぎるんだ。
例えば、学校のいじめを学校の生徒が内部告発しても、保護対象には入らない。学校に雇用された労働者ならその資格があるんだけど、そのほかの生徒、保護者は「労働者」じゃないから、そもそも保護対象外だ。


 じゃあ、黙っていたほうがいいのかなぁ。
 たしかに公益通報者保護法は助けてくれない。でも、内部告発にきちんと対応して不正を是正しなきゃいけないし、内部告発者も守らなきゃいけない、っていう社会的な機運は強まっている。
学校の先生や教育委員会に通報があったのに、いじめが放置され、通報した生徒もいじめられる、なんてことは今や社会的に許されないはずだと、おじさんは思うよ。



 公益通報者保護法 一定の要件を満たす内部告発をした労働者について、解雇、降格などの不利益な扱いを禁止している。また、事業者や行政機関に対し、公益通報への対応を促している。「国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法令の規定の遵守」を図ることなどが目的。
 公益通報者保護制度の実態調査 消費者庁は現在、外部の公益法人に委託して、公益通報に関連する訴訟など紛争の事例を集めたり、内部告発の当事者にインタビューしたりする調査を進めており、この春に調査結果がまとまる見通し。これを受け、制度見直しが議論されることになる。

 

 

朝日新聞報道局 奥山俊宏

1966年生まれ。89年から朝日新聞記者。 東京社会部などを経て2006年から特別報 道チーム。ネット新聞「Asahi Judiciary」 の編集も担当。著書に『ルポ東京電力 原発危機1カ月』(朝日新聞出版)など。

 

2013年3月10日

 

 

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