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政界のパワーバランスが「政高党低」に

 

 


首相の指導力か独裁か、それが問題だ

 

 最近「せいこう、とうてい」という言葉を聞きませんか。「西高東低」なら、西に高気圧、東に低気圧がある気圧配置ですが、「政高党低」、どこに権力があるかを示す政界の言葉です。

 

 

イラスト・大塚洋一郎

 

 

 

 

 政が高くて、党が低いの? よくわかんないよ。
 政というのは政府のこと。党は政党だね。今いわれているのが、国が物事を決めるとき、政府つまり安倍晋三内閣の決定権が強くて、自民党が弱いという構図なんだ。


 具体的には何を決めるときのことなの?
 法律や予算を作るときにその傾向がはっきり出るんだ。内閣が国会に法案や予算案を提出する前に、慣例として自民党に示す。そのとき、どれだけ党の考えを取り入れるか、またどれだけ大臣たちが丁寧に党のお偉いさんたちに頭を下げて回るか。こうしたことを見ていくと、どっちが権力を持っていて、決定権があるかがわかってくる。


 で、今は安倍内閣の方が強いんだよね。
 そう。各種世論調査を見ると、安倍内閣への支持率がものすごく高い。自民党はその人気を気にして、本気で安倍内閣に抵抗したり、文句を言えなかったりする状態にある。内閣の意のままになっており、「自民党は安倍さんのポチだ」と言われることもある。つまり尻尾を振ってこびる犬という意味だね。


 具体的に最近何かあったの?
 9月に復興特別法人税を巡っての攻防があったんだ。この税は震災復興のため、2012年度から14年度まで、法人税の額の10%分を納めるものだ。安倍首相は景気回復を目的に企業活動を活発化させるため、13年度に前倒しで終わらせることにしたんだ。


 企業は喜ぶね。
 自民党は反対したんだ。復興に対して党が後ろ向きだと有権者にとられかねないからね。また事前に頭を下げて回ることなく、いきなり決めたことにも憤っていた。自民党の高村正彦副総裁が、菅義偉官房長官に「政府が言えば党がついてくると思っているのかもしれないが、国民の理解を得るためには、まず党の理解を得る努力をしてもらいたい」と苦言を呈した場面もあった。だけど安倍内閣は押し切ったよ。


 他にもあるの?
 「これは首相官邸の意向ですから」と、法案をごり押ししてくる大臣もいて、党から「そういう言い方はないだろう」「こちらの意見も聞け」と反発されている。勢いのある安倍首相の意向だと言っておけば、物事が進むと思っている大臣がいるのも事実だね。


 逆のケースは?
 「政低党高」だね。内閣支持率が下がると、内閣に対して党は自由にものを言いやすくなる。民主党政権が混乱したのは、政府の方針に絶えず党からさまざまな異論が出て、決定できなかったからだ。内閣に党を抑える力も、党をまとめる人もいなかった。


 「政高」の影響は他にもあるのかな。
 党の実力者から、人事ではわれわれの意見を聞いてほしいと言われても、安倍首相は聞かなかった。こうした一連の出来事を、首相の指導力ととるか、独裁ととるか。その時々によって評価は異なる。


 「党低」の側の人たちはどうなるのだろう。
 「言うことを聞いてくれない」という不満がたまると、首相を引きずりおろそうという不穏な空気が出かねない。そうした人たちのガス抜きを上手にしながら、政権を運営していくのが王道といわれているよ。

 

 

 

『週刊朝日』編集部 渡辺哲哉

1973年生まれ。99年から朝日新聞記者。2004年に政治部。首相官邸や厚生労働省、外務省、自民党、民主党に政権交代した後は同党や国会、自民党などを担当した。現在は『週刊朝日』で政治担当。

 

2013年10月13日

 

 

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