住民は切実 少しでも減らして
福島第一原子力発電所の事故で放出された放射性物質は風に乗って広がり、人の暮らす場を汚しました。その汚れを取り去ろうという除染作業が国や自治体によって進められています。その現場で、ルール違反が行われていたことが朝日新聞の調査報道で明るみに出ました。
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朝日新聞1月4日付で掲載された「手抜き除染」の写真 |
Q ジョセンって何なの。
A 「除染」と書いて、「じょせん」と読む。汚染を取り除く、ということだ。
Q 最近、よく聞くようになったよね。
A 知っていると思うけど、2011年3月11日に東日本大震災が発生し、東京電力の福島第一原子力発電所で原子炉を制御できなくなる事故があった。原子炉の中には、核反応でできた物質がたくさんあるんだけど、その一部が事故によって外に漏れ出てしまった。それが雲のように空気中を漂って、風向きに応じて、あちこちに流れていった。
雨が降った時に地面や家の屋根、道路とか、あらゆるところに薄く広く落ちて、一部はそこにくっついてしまった。核反応でできた物質の中には、人体に有害な放射線を出すものがある。だから、放射能汚染とも呼ばれる。その汚染をきれいにしようというのが除染だ。
Q おそうじみたいなものなのかな?
A まさにその通り。水で流したり、拭いたり、汚れた土や枯れ葉、落ち葉を取ったり、枝打ち(枝を切り落とすこと)をしたりする。
Q だれがやってるの?
A 福島第一原発の周りとか汚染の大きな地域では、国の環境省が大きな建設会社に除染作業を注文して、やってもらっている。自治体が注文主になる地域もある。実際の現場では下請けに雇われた人たちが中心になって作業している。
Q 大変そう。
A 学校でそうじするのと大きく違うのはそこ。きれいにしなきゃいけない場所がたくさんあって、とても広いから、たくさんの人手がかかる。何千億円単位のお金もかかる。新年度予算の分もあわせると1兆5619億円に上る。それから、しつこい汚れもあるから、放射線の量がなかなか減らないことが多い。
Q ふーん。
A そうじで出たゴミを燃やしたり、汚水を流したりすることができない、というのも、ふつうのおそうじとは違うところだ。
Q え?
A 放射性物質は燃やしてもなくならないし、化学的な処理ができない。だから、はぎ取った土や落ち葉、洗浄後の汚水は全部、回収して、廃棄物として保管しなければいけないんだ。その量が膨大だから、保管場所を確保するのも簡単ではない。
Q 除染で手抜きが横行しているという記事が出てたね。
A そういう情報があって、昨年暮れに朝日新聞の記者4人が現場を見て回った。約20人の作業員から話も聞いた。その結果、福島第一原発周辺の除染作業で、取り除いた土や枝葉、洗浄に使った水の一部を現場周辺の川に捨てていたことなどがわかり、1月4日の朝刊に記事を出したんだ。工期も短いし、監視の目も緩いし、そもそも、完璧な除染ができない、という事情が背景にあるようだ。
Q ちゃんとやってもらわないと。
A 汚染された場所に住む人や、福島第一原発の周辺の家に一日も早く戻りたいと考える人にとっては切実な問題だ。少しでも汚染を減らしてもらわなければならない。
その一方で、「大手建設会社だけが得をする除染ではなく、他の地区へ移住する資金がほしい」という声もある。原発事故に関する国会事故調の報告書は「除染の是非については住民間でも大きく意見が分かれている」と指摘している。
放射性物質汚染対処特措法 放射性物質による環境汚染について、国は「これまで原子力政策を推進してきたことに伴う社会的な責任を負っている」ということから、「必要な措置を講ずるものとする」と定められている。昨年1月に全面施行された。
環境省の見解 朝日新聞の報道を受けて、環境省は除染適正化推進本部を設置。報道や作業員からの通報で特定した19件について事実関係を調査し、18日、そのうち5件について問題があったことを認めた。しかし、12件については「断定するには至らなかった」、2件については「適正だった可能性が高い」とした。
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朝日新聞報道局 奥山俊宏
1966年生まれ。89年から朝日新聞記者。 東京社会部などを経て2006年から特別報 道チーム。ネット新聞「Asahi Judiciary」 の編集も担当。著書に『ルポ東京電力 原発危機1カ月』(朝日新聞出版)など。
2013年1月27日 |