東京電力ってどうなっているの?

 

 

 

賠償、廃炉…税金投入で国有化に

 

 東京電力という会社の名前が新聞やテレビで報道されない日はないよね。福島第一原子力発電所の事故、被災者への賠償、電気料金の値上げ、そして国有化……。この会社がいったいどうなっているのか整理してみるね。

 

 

東京電力の看板©朝日新聞社

 

 

国会の事故調査委員会で質問に答える東京電力の勝俣恒久会長=5月14日、東京・永田町で©朝日新聞社

 

 

 

 原発が爆発する映像は何度も見たよ。お母さんも放射能が心配って言っていたなあ。
 そうだよね。昨年3月11日の東日本大震災の大津波によって、東京電力(東電)の福島第一原発は相次いで爆発し、核燃料はどろどろに溶けるメルトダウンを起こしたんだ。放射能をまき散らしたので福島県の10万人を超える人が今でも避難生活を強いられている。「レベル7」といって、チェルノブイリ原発事故と並ぶ人類史上最悪の原発事故を起こしてしまったんだ。

 

 ひどい話だよね。
 まったくだね。東電で働いている人たちにとっても運命が変わった日だったろうね。1万3千人もの社員が福島など東北各地に送り込まれ、被災者の賠償の受け付けをしているんだけれど、家を捨てて逃れてきた被災者の人から怒鳴りつけられたり苦情を聞かされたり、見ていて気の毒になる作業だよ。こうした賠償に少なくとも2兆5千億円が支払われるんだ。


 すごいお金だね!
 東電ではとうてい払いきれないので、これはほとんどが国のお金、つまり税金なんだ。東電の経営を助け、円滑に賠償を行うために特別につくられた「原子力損害賠償支援機構」という組織を通じて東電に税金が支払われ、東電はそのお金を被災者に払っているんだよ。
  それだけじゃなくて、近づけば即死するほど、ものすごい放射能に汚染された原子炉から溶け落ちた核燃料を取り出して保管する「廃炉」という作業にも1兆円以上かかる。いや、もっとかかるかもしれない。何せ人類が経験したことのない作業だから、いくらかかって何年かかるのかもわからない。そもそも本当にできるかどうかもわからないんだ。


 うひゃー!
 ということもあって、政府が東電に1兆円をあげるんだ。といってもただあげるのではなくて、東電の発行する株を買う。つまり政府が東電を買って国有化することにしたんだ。それで国が選んだ経営陣を送り込む。東電のボスだった勝俣恒久会長は6月末で辞めることになったよ。


 白髪のおじいさんでしょ? テレビで見たよ。
 勝俣さんのお父さんは昔の麻布中学(東京)の先生で、代々木ゼミナールの名物教員だったんだ。教育熱心で、勝俣さんのお兄さんは東大を出て新日本製鉄の副社長になり、弟は慶応大を出て、総合商社の丸紅の会長になったんだ。勝俣さんも東大を出て東電の会長になった。3人とも一流大学を出て出世したので、「勝俣3兄弟」といわれて有名だったんだ。受験勉強が大得意な一家なんだよ。


 うらやましいな。僕も勉強ができるようになりたいよ。
 でも考えものだよ。勝俣さんの言動を見ていると、原発事故は天災であって、自分たちは悪くない、というのがありありと見て取れる。菅総理(当時)やほかの人のせいにして。国会の事故調査委員会では委員から「あなたはどこの会長ですか? 自分に責任がないということばかり言って、のらりくらりと他人のせいばかり」としかられていたよ。
  それに対する勝俣さんの返事がふるっていて、「たいへん貴重なご意見、ありがとうございました」だったけれど。
  いつもこんな感じなんだ。おじさんは今回の地震を通じて、日本の国は、上に立つ人、つまりエリートと呼ばれる人たちの無責任さや保身があまりにひどい、とつくづく思っている。勉強していい大学やいい会社に入ればいいってもんじゃないよね。

 

 チェルノブイリ原発事故 1986年、現在のウクライナに位置する旧ソ連のチェルノブイリ原発で起きた爆発事故。半径30`内に住む約11万6千人が強制避難させられた。消火にあたった消防士ら約30人が直後に死亡、がんによる死者は数千〜数万ともされる。
  国会事故調査委員会(国会事故調) 
東電の原発事故の原因究明などを目的に国会に設けられた。科学者ら10人の委員からなる。政府が設けた事故調査・検証委員会とは別の組織。

 

 

朝日新聞経済部 大鹿靖明

 1965年生まれ。アエラ編集部を経て現 職。著書に『ヒルズ黙示録検証・ライブ ドア』『ヒルズ黙示録・最終章』『墜ちた 翼ドキュメントJAL倒産』『メルトダ ウンドキュメント福島第一原発事故』

 

 

2012年5月27日

 

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