放射性物質除く作業でルール違反
鬼原民幸記者 朝日新聞特別報道部
ジャン 今年に入って、東京電力福島第一原子力発電所(原発)の周りで「手抜き除染」がたくさん見つかったって聞いたけど、どういうことなの?
鬼原記者 2011年3月11日の東日本大震災のときに起きた原発事故によって、放射性物質が福島県内にたくさん広がった。人が住む場所からその物質を取り除こうと、国が進めているのが除染なんだ。だけど朝日新聞の取材で、除染作業をルール通りにやっていないことが、いろいろな場所で発覚したんだよ。
ケン 原発事故のせいで、たくさんの人が避難しているよね。でも除染ってよく知らないな。
――放射性物質は目に見えないんだけど、風で広がり、道路や山、家の庭や屋根なんかにくっついているんだ。やっかいなことに、燃やしても、水で洗ってもなくならない。だから、付着した葉っぱや土をそのまま集めたり、洗い流した水をタンクに入れたりして、決まった場所に置いておかないといけない。それをするのが除染作業だよ。
ポン すごく大変な作業なんだね。
――そう。国が除染をしようと決めた地域だけで、東京ドーム5000個分もある。ほとんど手作業でやるから、一日数千人の作業員が働かなきゃいけないんだ。
国は少なくとも6500億円という大金を使うつもりなんだけど、あまり人が入らない山林の除染をどう進めるのかはまだ決まっていない。お金があとどれくらい必要になるのか、いつになったら終わるのかだれにもわからないんだ。
ジャン へー、鬼原記者にもわからないんだ。「手抜き」って、どんなルール違反があったの?
――除染をしている作業員の中に、集めるはずの葉っぱや土を近くの山や川に捨ててしまった人や、洗浄に使った水をタンクに入れずたれ流してしまった人なんかがいた。現場責任者が作業員に捨てるよう指示したこともあった。朝日新聞の記者が自ら13か所で確認して報道したんだ。
ケン なぜ手抜き除染があるってわかったの?
――現場で働いている作業員から寄せられた情報を頼りに、記者が福島県に行って除染作業を見て回ったんだ。何日か見ているうちに、本当に手抜き除染をしている現場を見つけた。証拠として、その場面を写真やビデオに撮ったんだ。
ポン すごいね! でも、手抜き除染はぼくたちにどんな影響があるの?
――川に流れこんだ放射性物質は海に行き着いて広がる。山に捨てられた土や葉っぱや枝は、強い風や雨でまた人が住む場所に飛んでくるおそれがある。ちゃんと集めないと、結局、有害な物質がいつまでたっても人の近くからなくならない。除染作業をする意味がなくなってしまうんだ。
ジャン これから、手抜き除染を防ぐにはどうしたらいいの?
――国は今月18日、朝日新聞の取材で発覚したものをふくめて5件の手抜き除染を認め、作業を担当する大きな会社に「今度やったら罰を与えるぞ」って注意した。現場の監視役を増やすことも考えているよ。
ケン へー。でも、それで解決する問題なの?
――いい質問だね。国は「調査が難しい」といって5件しか認めなかった。それに最近、千葉県松戸市で、ちゃんと除染をしたはずの公園に、また放射性物質が戻っていることが発覚した。今回の問題をきっかけに、国は今の除染作業のやり方が正しいのかどうか、そういう基本的なことから考え直すべきなんだ。
環境省が手抜き除染と認めた5件
・福島県楢葉町の民家ベランダを高圧洗浄したときの排水処理
・飯舘村の郵便局駐車場で側溝に洗浄水が流出
・田村市でかりとった草木などを川岸に放置
・田村市で作業員の長靴を洗った水が側溝に流出
・田村市で長靴、ちりとり、熊手を川で洗う |
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