桜井　林太郎 記者（朝日新聞科学医療部）

ジャン

　広島県福山市の特別養護老人ホームで、下痢などの症状のあった入所者のお年よりがあいついで亡くなったって、ニュースを読んだけど。

　入所者のほとんどからノロウイルスが見つかったと、保健所が発表していたね。その後、全国各地の施設で集団感染が起きているよ。

　こわいな。でもノロウイルスって、今回の騒動で初めて聞いたよ。どんなものなの？

　冬に流行「おなかにくる風邪」の原因

　――ウイルスとは特別な顕微鏡でないと見えないくらい小さい、もっとも単純な微生物の一種なんだ。動物や植物などにすんでいてふえるんだけど、病気の原因になることがあるんだ。

　ポン　それで、ノロウイルスは？

長野市の特別養護老人ホームの玄関に立てかけられたノロウイルスの感染予防をよびかける看板。ボランティアで雪かきにおとずれた小学生も手を消毒しています

　――冬場に流行する感染性胃腸炎という病気があるんだけど、多くはノロウイルスが原因なんだ。だれでもかかりうるありふれた病気だよ。かかると、食べたものをもどす、おなかをこわす、などの症状が出る。「おなかにくる風邪」ともいわれているね。ただ、なぜ冬にはやるのか、はっきりしないんだ。

　ケン　子どももかかるの？

顕微鏡で見たノロウイルス＝国立感染症研究所提供

　――じつはお年よりだけでなく、子どももかかりやすいんだ。ウイルスへの抵抗力が弱いからね。1968年に、アメリカ・オハイオ州のノーウオークという町の小学校で集団発生したときに初めて見つかり、「ノーウオークウイルス」とよばれていた。3年前、正式にノロウイルスと命名されたんだよ。

　ポン　かかったらどうすればいいの？

　――体内の水分がうばわれて脱水症状にならないように水分を補給して、ウイルスへの抵抗力がつくまで待つ。2日もすれば自然になおるよ。後遺症もないからね。ただ、はげしくはいたり、ぐったりしたりすればすぐに病院に行く必要があるよ。

　ジャン　それにしてもどうして感染するの？

　――このウイルスはもともと、人間の体をすみかにしているんだ。腸でふえて、排泄物（うんちやおしっこ）といっしょに海に流れこむ。それでカキなどの貝類にウイルスがたまるんだ。

　ケン　それを生で食べるとかかるんだ。

　――そう。このウイルスは食中毒でもっとも多い病原体なんだ。とても感染力が強いから、85度ぐらいで十分に加熱してもらう必要があるよ。

　ジャン　食べなければ、ならないね。

　――貝だけが原因じゃないんだ。たとえば、患者のはいた物や便が手につき、それを口に入れたり、料理した人らを通じて汚染された食品を食べたりしても、かかるんだ。

　ケン　何に気をつければいいかな。

　――まずは、トイレの後などに、せっけんで手をあらうことが大切だよ。タオルは自分用を使おう。ほかの病気をふせぐことにもなるからうがいもいっしょにね。お父さんやお母さん、友だちらまわりの人たちにもしてもらおう。

　ポン　亡くなった人が多いけど、ことしは、はやっているのかな？

　――国の研究所が全国3千の小児科からの報告を受けて感染性胃腸炎の流行のようすをみているのだけど、ことし特に流行しているわけではなさそうだよ。

　ジャン　毎年何人くらいがノロウイルスに感染するの？

　――日本のデータはないけど、アメリカでは国民のほぼ一割が感染するらしい。感染しても2〜3割は病気にならず、亡くなるのは10万人にひとりの割合といわれているよ。日本でも、高齢者施設だけでなく、病院や小学校、幼稚園、保育園なども対象にどのくらい集団発生があるかを調べて、一般向けの予防マニュアル（手引）もつくるんだって。

　ケン　冬がすぎれば大丈夫かな？

　――安心できないよ。同じような症状をしめすロタウイルスという別のウイルスは、春にかけてはやるんだ。だからさっき話した予防策を徹底してね。

（2005年1月22日）