朝日小学生新聞 毎日発行 月ぎめ1,720円 ブランケット版(8ページ) 朝日小学生新聞

池上彰の新聞ななめ読み

2011年2月25日 朝日新聞掲載

 

 

 

池上彰の新聞ななめ読み
小学生向けの新聞

 

 

 やさしく書くことは難しい

 

 

 今年の4月から新しい学習指導要領が小学校で実施され、授業で新聞の読み方が取り上げられることになりました。

 新聞を読む子どもは学力が高いという調査データもあるので、新聞大好きな私には嬉しいことです。授業で取り上げられると、新聞が学力向上に役立つという文部科学省のお墨付きを得たようなものです。

 新聞各社は、この際、「子どもの学習のためにも新聞を購読しましょう」とキャンペーンを張るなど、売り込みの絶好のチャンスと考えているようです。

 子どものための新聞といえば、小学生新聞があります。毎日小学生新聞と朝日小学生新聞が双壁です。毎日小学生新聞の創刊は1936年にさかのぼるという老舗。朝日小学生新聞は1967年創刊です。どちらも日刊ですが、朝日には週1回の中学生ウイークリーもあります。

 本紙の部数が減少傾向にある中で、小学生新聞は、両紙とも部数を伸ばしています。これを見た読売新聞も、3月に「読売KODOMO新聞」で参入。週1回刊です。新聞社だけでは子ども向けのノウハウが足りないのでしょうか、小学館の協力を得るという異例の体制です。

 

 

 なぜ小学生新聞の部数が伸びているのでしょうか。本紙の人たちも考えてほしいですね。小学生新聞を読んでいるのは、小学生ばかりではないからです。わかりやすい記事を求めて、大人も読んでいるのです。

 その点では、NHKの「週刊こどもニュース」も同じでした。NHKの夜7時のニュースはむずかしいから、「こどもニュース」で理解するという大人が大勢いました。ただし、こちらは「見ているのは子どもではなく大人だった」という理由で打ち切られました。「大人が見ていたら番組を続ける意味がないのか」と突っ込みを入れたくなります。

※クリックすると記事が大きくなります

 それはともかく、たとえば朝日小学生新聞2月18日付紙面では、1面で「食料の国際価格値上がり」を取り上げています。国連食糧農業機関(FAO)の日本事務所長へのインタビューです。漢字にはすべてルビが振ってありますが、ここではルビ抜きで記事を採録します。

 「食料の一部は国境をこえて取引されます。米.小麦などの穀物、食用油になる大豆、牛や豚などの肉、チーズなどの乳製品、砂糖などがありますが、55品目の国際価格を平均して一つの数値として示したものですが、FAOの食料価格指数です」「2002〜04年の平均を100とすると、11年1月は231と統計を取り始めた1990年以降、過去最高」

 食料価格指数がどんなものか、わかりやすい説明です。

 

 

 ただし、もう少し頑張ってほしかったと思うのが、投機資金流入で値上がりのくだりです。

 「農産物の市場(先物市場)に、だぶついたお金が流入しているのも一因です。投機(相場の変動を予想して利益をえようと行う取引のこと)のお金が大量に流れこみ、食料価値を押し上げています」 

 小学生にわかる記事にするには、先物市場の説明が不可欠なのに、説明がないまま使われています。

 また、投機の説明に「相場の変動」という別のむずかしい用語が使われています。

 こういう細かい点まで神経を使って解説してこそ、わかりやすい記事になります。単に漢字にルビを振っても、小学生向けの新聞にはなりません。記事を書く側が、そこまで気づけないと、本当の意味でわかりやすい新聞にはならないのです。

 それでも、読者にわかる記事を書こうと努力している点は、本紙の記者も見習ってほしいところ。やさしく書くのは、むずかしいのです。

◆東京本社発行の最終版を基にしています。

 

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