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2017年4月16日付
最大で震度7を記録した熊本地震から、14日で1年がたちました。震度7を2回記録し、被害の最も大きかった熊本県益城町出身の梅木佳奈さん(県立熊本高校2年)は、震災の報道に疑問を持ったといいます。今は、自ら中高生にインタビューし、本にまとめようと活動しています。(近藤理恵)
「本当に被災者の声が届いている?」
益城町に暮らしていた梅木さんは、熊本地震の報道を見て思っていました。被災者が「がんばっていきたい」と語るシーンを何度も見ました。震災に対する考え方はさまざまなはずなのに、ポジティブな意見ばかりが報道されていることが気になったといいます。
家が全壊した梅木さん自身も、何度か取材を受けました。暮らしていた町が一瞬にして変わり果てた経験はつらく、前向きに考えることはできませんでした。しかし、カメラを前にすると緊張して、「勉強をがんばっています」と話したそうです。
同じように、本当の思いを伝えられなかったという声は、他の人からも聞こえてきました。これから復興を担う若い世代の声をもっと多くの人に知ってほしいと考えた梅木さん。同級生らに震災について聞き、本にまとめようと決めました。
インタビューは昨年12月に開始。これまでに益城町立木山中学校の同級生3人から話を聞きました。じっくりと時間をかけ、複数回、話を聞くようにしています。模範的な回答はしてほしくないと、最初はあえて質問せず、震災の経験を自ら語ってもらいます。
「同世代の私にだからこそ話してくれる、ということに意味があると思います」と梅木さん。中には、いまだに思い出して何も手につかなくなる時もあると、涙ぐみながら話す人もいました。「自分も震災を忘れたくない。本という形あるものになるから話したい、と言ってくれた人もいました」
隣接する熊本市内にある高校に進学すると、熊本市と益城町の被害の大きさの違いも浮きぼりになりました。中学の同級生は、ゆれがあったとき自分1人だけが怖がって、周りは笑っていたことがあったと打ち明けました。梅木さんも、高校の同級生とは地震の話はほとんどしません。胸に抱えた不安や、当時の経験を中学の同級生と話すと「安心する」と言います。
こうした思いから、県外だけでなく、県内でも、震災の経験を共有する手立てにしてほしいと考えています。
すでに6人とインタビューの約束をしている梅木さん。「若い世代は大人から求められる像ができてしまっているように感じます。でも、いろんな考えの人がいる。インタビューを通じ、高校生の等身大の声を届けたい」
今もいたるところに、がれきや倒壊した家屋があります=12日、熊本県益城町
梅木さんが撮影した震災から半年後の益城町=本人提供
記事の一部は朝日新聞社の提供です。